三つ首犬(いぬ)と九尾の化け猫


 警戒していないわけではないだろうけど、殺気もないしこちらの隙を窺うような素振りも見られない。
 本当にただ付いて来てしまっただけなのかも知れないと気が緩みそうになってしまう。

 華倉さんがスーツから部屋着に着替えている間に夕飯の配膳を済ませる。
 いつもならこの時間は出て来ない座敷童子たちは、みんなしてケルベロスに群がっている。

 そのケルベロスはというと、僕たちが夕飯を摂る居間の隅に大人しく陣取り身体を伏せて丸くなっていた。
 目を閉じている右の頭、座敷童子たちの話を聞いているらしい中央の頭。
 そして左の頭は。

「はいはい、分かったから落ち着いて」

 居間に入ってきた華倉さんを見付けるなり嬉しそうに瞳を輝かせて暴れた。
 まぁ、首から上しか自由に動けないらしいのでかなり奇妙なんだが。
 どうやらこの左の頭だけ、異様に華倉さんに懐いている様子。
 早いな。

「やはり3つともそれぞれ独立しているんですね」

 食べ始めてすぐ、僕はケルベロスを見ながら呟く。
 華倉さんの傍に行きたくて仕方ない左の頭を適当に宥めながら、ん、と華倉さんが反応する。
 そうみたいだねとそれぞれ様子の異なる3つの頭を見て華倉さんが頷いた。
 この場合脚や胴体はどれの意思で動くのだろうか、謎過ぎる。

「……それはそうと魅耶」
「何ですか?」

 不意に華倉さんが僕を呼んだ。
 僕は普通に対応していたつもりだったのだけど、華倉さんからはこう言われる。

「あからさまに機嫌悪そうなんだけど……やっぱり怒った?」

 ケルベロスのこと。

 ……まぁ、不意打ち過ぎて許容範囲は確実に超えている。
 ええまぁと答えて、僕は味噌汁を飲みながら告げる。

「国内のみならず国外の妖獣にまで好かれるとか、どれほど魅力的なんだアンタ好きです腹立たしい」
「意見はどちらかに集約して」

 仕方ない、本音である。
 上限知らずに意思ある者を惹き付ける華倉さん、好きです。

「鬼様の嫉妬もワールドワイドなんだねぇ」

 ケルベロスの背に乗り中央の頭に寄り掛かって、ときちゃんが笑った。
 そのようですねと頷く僕を見ながら、華倉さんがぽつりと漏らす。

「魅耶のそういうとこ直らないのは判ってたけど、落ち着きもしないのか……」

 しません。
 それだけははっきりさせておいた。



2018.2.17
2023.10.4 加筆修正
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