三つ首犬(いぬ)と九尾の化け猫


 まぁそれは分かりますけども!
 それにしても。

「総本山の入口で何か反応しなかったんですか?」

 ケルベロスですよ? 日本の存在じゃないけど、何らかの応答があってもよさそうなものを。
 やや警戒しながら僕はケルベロスを眺めて華倉さんに訊ねる。
 華倉さんはやけに懐いてくる左側の頭を撫でてやりながら、うーんと考えていた。
 どうやら特に反応はなかったということか。

 ということは、こいつは「悪」ではない。

「で、どうするつもりですか」

 いつまでも玄関で押し問答しているわけにもいかない。
 僕がそう訊ねると、華倉さんは苦笑いで返す。

「流石にこのまま野に放つわけにもいかないと思うんだ……だからちょっとの間、此処で面倒を」
「大丈夫ですかそれで? 素性もよく分からないのに」

 確かに華倉さんの言い分は理解出来る。
 一般の人間には気付かれないとは言え、此処にいるのはかの有名なケルベロスだ。
 ひとまず此処に留めた上で事情を把握することが一番の策だろう。

 でも、全面的に受け入れていいものかとも疑ってしまう。
 場所が場所だけに。
 恐らくこのケルベロスは、華倉さんがどういう存在なのかを「分かって」付いて来た可能性が高い。
 などと様々な疑問をぐるぐると巡らしながらも、僕は訝し気にケルベロスを睨んでいた。

 そんな僕の視線を捉えて暫しそのままだったケルベロスの中央の頭が静かに動く。
 何か、顔全体を使って僕に訴えて来ているようだった。
 正直何を言いたいのかは分からない。
 ただ、それだけを見ていると敵意はない様子だった。

 仕方ないなぁと思って家の中へ上げようと決めたときだ。

「うわ――――!! ケルベロス!! 冥界の番犬ケルベロスだぁぁぁ!!!」

 僕の頭に降って来て興奮気味に叫ぶ灯吉くん。
 おふっ、と思わず声が出た。
 うわーうわーうわーと興奮のあまり言葉が続かない様子。
 取り敢えず降りなさい。

「わー、大きいわんちゃん。頭が3つもあるね」

 気付くと座敷童子わらしたちが全員集まって来ていた。
 ときちゃんは早速ケルベロスの背に乗っかって、わしゃわしゃと頭を撫でている。
 怖いもの知らずだな本当に。

「とにかく上がってください……仕方ないなぁもう」

 不本意ではあるけれど、僕がそう言うと華倉さんが僕を呼ぶ。
 何ですかと訊ねると、華倉さんはケルベロスを見て言った。

「その前に足を拭こう。土足になっちゃうし」

 そういうところはきちんとしていていいんだけど、だったら庭にでも放っておけば済むのでは。
 とか言いそうになったのだが、それはそれで「変なもの」を引き寄せる原因になりそうだった。
 結局、そうですねと同意の頷きを返して、雑巾でケルベロスの足を拭く。
 にしても大人しいなこいつ。
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