瀧崎家菩提寺
瀧崎家もまた、やめることが出来ないのだ。
空けることは許されないのだと隼人さんは言った。
見付かるわけにはいかない。
寺が無くなっても瀧崎家が潰れても、鬼の遺骸は残る。
これからも増えていく鬼の遺骸。
やめられない供養と償い。
『動物なんだよね』
隼人さんがぽつりと零す。
何気無く鬼の遺骸を埋葬してある供養塔を2人で眺めていたときのこと。
隼人さんはその口元に薄く、本当に薄いあの笑みを浮かべて呟いていた。
『動物とおんなじ。何の違いもない』
その笑みの下にはいつか見たものよりも殊更濃ゆい罪悪、と、侮蔑の、
「――……っ!」
驚いた顔がこちらを見ていた。
俺も自分のしたことに驚きを隠せずに、かと言って、掴んでしまった手をすぐ離すわけにもいかずに止まっていた。
とても淡い薫りだった。
けれどその淡さが冗談だと思えるほど、強い瘴気と毒気が感じ取れた。
目の前にいるこの人から。
丁寧に伸ばされた髪を緩く括り、驚きに滲む2つの瞳を眼鏡の奥に収めている男性。
邪気などという言葉からは程遠い柔らかな雰囲気を纏うその人からは、確かに毒々しい邪気がする。
つい先日隼人さんが持って来たあの鬼の遺骸と同じ。
鬼神の、毒。
「魅耶?」
見知らぬ男にいきなり腕を掴まれ足止めを食らい立ち竦む俺たちを、いや、相手の男性を呼ぶ連れの男性。
この手を離すべきか否かを何故これほど躊躇っているのか、その時には分からなかった。
隼人さん。
何でこの人と同じ気配が、貴方からも感じ取れるんだろうか。
2023.08.31