瀧崎家菩提寺


 幸い寺にいる間は、幾ら見えても平気だった。
 親父もいるし、何より隼人さん自身がとても頼もしかった。

 その根拠となったのが、隼人さんの持っている刀。
 邪気に中てられて、もしくは惹かれて近寄ってくる悪霊の類は見えても、隼人さんの纏う殺気のせいでこちらまでは届かない。
 たまに突破を試みるものもあったが、隼人さんの一振りの前には何の意味もなさなかった。

 この人は慣れていた。
 それも当然だった。
 話だけ聞いていては到底理解しなかっただろうその事実を、俺はそのお陰で心底納得してしまった。

 この人は償いのために刀を振るう。
 食材として鬼を狩り続け、文字通り喰らい続ける「悪食の一族」の業を償うために。

 ここは先祖代々、瀧崎一族が喰らって来た鬼たちの魂を供養するために建てられた寺だ。
 魂というと聞こえはいいが、事実、今も尚喰われた鬼の骸骨が運ばれてくる。

 ここは食材になった鬼たちの墓場。
 一般的に弔われた人間と同じように、鬼たちもまたここに眠る。

 さすがに距離は取ってあるが、檀家の人たちはまさか鬼と同じ墓地に弔われるとは思ってもないだろう。
 話したところで信じる人はいないかも知れない。
 江戸時代とかならまだしも、この現代社会で鬼の遺骸があるなんて、下手くそなお伽噺にすらならない。

 けれど残念なことに此処には物質的証拠がある。
 事実、此処には人間のものではない、人間よりも大振りな、けれど人間と似た構造の数多の骸骨が大量に、それこそ山のように眠っている。

 それがもし、何らかの手違いで白日の下に晒されるようなことが起きてしまったら。

『この寺を空けるわけにはいかない』。
 この寺と墓地を管理する僧侶たちは承知の上でこれからも此処に住む。
 表向きはごく普通の少し歴史の長い古めかしい寺として、檀家という社会的な関わりを続けていく。
 素知らぬ顔をして、何食わぬ素振りで。

 それはまたこの寺と土地の権利を持つ瀧崎家も同じように、素知らぬ顔で何食わぬ素振りで、この大量の鬼の遺骸をこれからも隠し続ける。
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