瀧崎家菩提寺
その人を紹介され、謎の「供養祭」に関わるようになり、俺は少しずつ、自分でも判ってくる。
この寺は数百年前に当時の瀧崎家が建立した。
目的は狩猟した“獣”の供養だった。
けれど、慰めのための供養ではなく、それは戒めの供養だと、ある日親父は言った。
俺の高校受験が終わった頃だっただろうか。
実家の寺はその瀧崎家の所謂菩提寺で、今は檀家も多少いるが、基本は瀧崎家が自らの一族のために作ったもの。
この供養祭のために、その供養祭をしなければならなかった先祖たちの供養のために。
『俺が死に水を取るのは前当主だが……隼人くんの死に水取りをすんのはお前だぞ』
親父は言う。
実家の寺を継ぐことには何の不満もなかった。
きっと下手に一般社会に出ていくよりも、寺に居るほうが都合がいいと考えていたから。
それに親父は常々、この寺を空けるわけにはいかないと口癖のように繰り返していたし、ならば俺がという気分になるのも当然だった。
でもそれは、瀧崎一族の深い業の片棒を強制的に担がされるということでもあった。
瀧崎家は歴史の長い一族だ。
寺の建立がそもそも何百年も前とかだし、そういや近所で瀧崎の名を知らない人はいなかった。
無関係そうな俺の同級生ですら、近所にある滅茶苦茶デカいその「お屋敷」を知っていた。
勿論瀧崎一族は寺よりも以前から続いている。
実際、何の仕事をしているのかまでは詳しくは知らなかった。
知ってしまってからは、知りたくなかったと泣いて眠れなかった日もあった。
表向きは実業家じみたことをしているらしい。
けれどそれはあくまで社会的な側面でしかなく、それ自体は「一族」を語るには大した意味はない。
瀧崎家には長く続けている習慣がある。
故にやや閉鎖的な振る舞いをしなければならなかった。
このように、独自で寺を設けなければならないくらいの、悪習。
現当主である隼人さんは、全身を蝕むその猛毒を感じさせない陽気な人だった。
笑みは穏やかで、でも決して堅苦しくなく話せば面白い人だ。
『お前の方が長い付き合いになる。今のうちから少しは慣れとけ』と親父に言われて、最初は渋々顔を合わせていた。