カウントダウン


 俺にとってそれは、華倉や麻雪は勿論のこと、この篠宮家もそうだし、篠宮に関わる存在なんかも含まれる。
 そんな大事な存在の枠に、桑嶋さんが入っている、ってことか?

「えぇ??」

 うっかり素っ頓狂な声が上がった。
 まじで? などと完全に他人事に対する反応である。
 春和はそんな俺に怪訝な視線を寄越し、しかしはっきりと「おう」と答える。

「もうそんな簡単に手離せる存在じゃないと思うぞ。あれこれ理由作って、関係切ろうと躍起になる程度には」

 そうダメ押しされて、急に寒気がした。

 ——関係を切ろうとしてる。

 多分薄々勘付いてはいたんだろう。
 自分がやろうとしていることに。

 これ以上気を許してしまったら、彼女は必ず嫌な思いをする。
 わざわざ俺と関わって、する必要のない嫌な思いなんか抱えなくていいんだ、と、事あるごとに繰り返していた。

 それは、何故か。

「先に好きになったのって桑嶋さんだったよな」

 春和がふと呟く。
 それが何か、と思って、そう返そうと顔を上げたと同時だった。


「……あ」


 さすがの俺でも理解した。
 今はもう、俺の方が、好きになってるんだと。

 正直、こんなはっきりとした感情を自覚したのは初めてで、その衝撃ゆえか、身体が動かせずにいた。
 そんな俺を残して、春和が立ち上がる。
「また来るわー」と、それだけ告げて、さっさと帰って行ってしまった。

 ……1人残されても困るが、そっとしておこうという心遣いは有り難かった。

 ああ、そう。
 そっか。

 今まで気付かなかったのは、きっとそれが別の形をしていたからだ。
 家族のことを思う形とか、友人を思う形とはまた異なるもの。
 今まで知らなかったけど、一旦気付くと、驚くほど腑に落ちた。

 ソファーから立ち上がって、テーブルへ。
 スマホを手に取ると、桑嶋さんの番号を呼び出す。

 先輩、と驚いた様子の桑嶋さんに、感情を悟られないように告げる。


「……空いている日があったら教えて欲しい。2人だけで話したいことがあるんだ」


2020.10.2
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