【夢小説】居てほしい人
フレイグさんは言い終えると、そのまま顔を離し手を下ろす。
自分の鼓動が煩くて、恐らく顔も真っ赤であろう私をそれ以上は気に留めず、フレイグさんは再度グラスを取った。
「……す、済みません……です」
ようやく絞り出した一言は、動揺のためかやや可笑しくなってた。
フレイグさんは愉快そうに笑ってそれを受け取り、いいえ、と返してくれた。
「流石にそろそろ迎えに越させましょうか。花火見たいでしょう?」
時間を確認してから、フレイグさんが私にそう訊ねながら言った。
気付けば窓の外は夜の帳が降り始めている。
随分長いこと沈黙の時間が続いてたんだなと、私は他人事のように感じた。
不思議と今日のこの時間は退屈でも気まずくもなく、とても穏やかだったと分かっていたからだ。
その時間が終わろうとしている。
確かに花火は楽しみにして来た。
それこそイザークたちだけじゃない、アトラスに暮らす沢山の人達と一緒に見る、初めての花火だ。
そう思いながら隣のフレイグさんに視線を戻す。
兄弟特有のユメクイを使った連絡手段である、黒い霧のような生き物――フレイグさんの場合は蝙蝠――が出現したところで、私は口を開いた。
「花火、一緒に見に行きませんか?」
蝙蝠を飛ばす寸前だったフレイグさんの視線がこちらに向く。
私はそのあまりに綺麗な、でも驚きも混ざった瞳を見詰め返して続ける。
「あ、勿論嫌じゃなければですし……というか、私が帰った後改めて1人で過ごすというなら、その」
しどろもどろになりながら、頑張って言葉を続けていた私の肩に、フレイグさんの手が回される。
引き寄せられるかたちで抱き締められたことに気付いたのは、耳元で声がした時だった。
「貴方の誘いを断る理由などありませんよ」
その声を受けて、何故か慌てていた自分の心も落ち着きを取り戻していく。
じんわりとフレイグさんから伝わる温かさを感じている私に、フレイグさんからやや弾んだ声で返事が来る。
「そのお誘い、喜んでお受けしましょう」
手を離して、お互いの顔が見える距離で笑い合う。
結局、私がフレイグさんと一緒に広場に戻って来たものだから、その場での一悶着は免れなかった。
そうして見たこの日の花火を、私はこれから幾度となく思い出すことになるんだろう。
2026.08.19
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