黒蝶の夢


 己の欲に負ける家臣たち。
 ついにその刃に兄までもが斃れたその瞬間――

「兄と妹だけいれば、世界など必要ないと考えた」

 どうして欲しかったものから無くなっていくのか。

「そうして力に飲まれた」

 悲しみと怒りが心の全てを支配した。
 夢を奪う力を持つホープは、その感情のままに世界への復讐を始める。

 俺達が何をしたというのか。
 与え続けてきたじゃないか。

 ホープはそう苛立ちを覚えていたが、夢王である兄は違った。
 兄はどこまでも優しかった。
 ホープが勝手に逃がした妹の心配も、そしてホープのことも、ずっと心配してくれた。

 そんな兄がどうして、殺されなければならなかった?

「僕も……似たようなものです」

 ホープの独白が途切れた頃、フレイグが控えめに口を開く。

 世界を恨み、トロイメアを憎んで、今日まで生きてきた。
 憎しみだけがこの両足を支える力だった。

 だから死んで当然なのだ。

 自分たち兄弟が生きられるようになるなら、どんな手でも使う。
 均衡が崩れたとしても、他の誰かの犠牲が生まれたとしても。

 どうか弟たちが、普通に生きていける世界をと。

「そうかな? 君は、俺と真逆の選択をしたんだ」

 何がだ、と怪訝そうに眉を顰めるフレイグに、ホープは緩く首を振る。
 選んだ対象が全く違う、とホープは答えた。

「俺が選んだのはたった2人の命だ。俺と、その2人以外の全てを捨てようとした」

 比較するわけではない、とホープは一旦断りを挟む。
 どちらが優勢というわけでもない、とも。

「君が選んだのは世界の方だろう?」

 どんな形であれ、より多くのものを残そうとした。

「最愛の兄弟が生きていける“世界”を選んだ」

 君は俺より寛容だな、とホープは自嘲気味に笑った。

「命と引き換えの選択をしたつもりです」

 己のやろうとしたことの大きさは、理解出来ていたつもりだ。
 弟たちが少しずつその危うさに気付き、離れていく様を突き付けられても、後戻り出来ないほどの大事おおごと

「……確かに。君1人の命で取り引きが成立するかどうかはさておき、そのくらいしなければならない選択だっただろう」

 とても小さな、狭い世界で生きてきたせいだ。
2/3ページ
スキ