黒蝶の夢


「世界のことわりを創り変えようとしたそうだな」

 見知らぬ空間にいた。

 フレイグは奇妙な椅子に腰掛け、隣に他人の気配を感じた。
 声の主はその男だった。

「貴方は……?」

 逆方向を向いて隣り合わせに座るデザインのその椅子から動くことなく、フレイグは訊ねる。
 男は屈ませていた上体を起こし、顔の半分ほどをフレイグへ見せた。

 柔らかく、でもくたびれたような笑みを浮かべたその口で男は名乗った。

「……先代夢王の弟、と言えば分かるか?」

 言われた通り、フレイグは理解した。
 ナビとアカリの兄弟だった男だ。

 フレイグが何も返さないことを気に留めることなく、男――ホープは苦く笑って続けた。

「君も大それたことをしたな。……人々の愚かさに失望して、世界を滅ぼそうとした俺が言えた義理はないだろうが」

 ホープは過去を思い起こし、自分の行いをも顧みて告げる。

 馬鹿なことだったとは今でも思わない。
 けれど、一番笑顔にしたかった相手を悲しませたことが今でも悔やみ切れない。

 そんなホープの話を聞きつつも、フレイグは少しずつ状況を把握し、1つの問いを口にする。

「貴方は亡くなっているはずでは……」

 今こうして意識を取り戻す前、フレイグは自分で自分の夢を奪い続けていた。
 アダムの力を保つために。

 その先を思い出そうとしても、脳裏の景色には靄がかかり何も見えない。

 そんなフレイグから視線を外し、また深く椅子に座り直してホープが言う。

「ああ、ここは所謂“狭間”だ」

 狭間。
 フレイグは間接的なその表現でも充分理解した。
 やはり助からなかったと。

 けれど自然と、恐怖も後悔も抱かなかった。
 当然のことだとさえ思えた。

「俺はこの世界よりも、最愛の兄と妹を選んだ」

 クーデターに斃れた両親。

 怯え、泣きじゃくる幼い妹。
 そんな妹だけでも逃がしたくて、夢王の指輪を持たせ異世界に飛ばしたあの日。

 偽の指輪で命を削りながらも夢を与え続けた双子の兄。

 全ての事情を知りつつも何も出来ない自分に対する苛立ち。
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