【夢小説】Velvet


「確かに、“総て”を根底から覆す話ですからね。しかし僕の弟たちは皆聡明だ。一晩あれば解ってくれることでしょう」

 何が可笑しいのか、楽しそうにフレイグさんは肩を揺らした。
 振る舞いは恐らく、私がトルークビルに連れて来られる前の……まだ仲間だと信じていたあの時と変わらない。
 でも今はその全てが冷たくて非道で、気味が悪い。

「弟たちへのお気遣い感謝致します。繰り返しますがあの子たちは問題ありません。僕が一番気掛かりなのは、貴方ですよ」

 ふっと一瞬表情を消し、フレイグさんは再度笑みを作ってから私の方を見た。
 ソファーから、ベッドに座る私の隣へと移動する。

 身構えるように体を強張らせる私に次の瞬間起きたのは。

「……っ、?」

 フレイグさんの右手が動いたと思ったら、既にその手が私の顎を捉えていた。
 何だと思う暇もなく、唇は重ねられる。

 ……う、そ?

 離れたことで見えたフレイグさんの顔では、その口端は弧を描き、瞳は細められている。
 そこでようやく私は反応することが出来た。

 私、今、キスされた……?

「失礼。ようやく貴方を掴まえたのだと思ったら、先に手が出てしまいました」

 謝罪の言葉を述べているはずなのに、フレイグさんの表情はとても嬉しそうだ。
 状況を呑み込めない私に彼は全く構う素振りがない。
 むしろ困惑する私の態度を見て、それすら楽しんでいるかのような余裕すらある。

 そんな飄々とした空気感のままフレイグさんはさっさと本題に入った。

「アダムと貴方の婚姻は、本当に形式だけのものですよ」

 動揺に揺れる私の瞳を固定するかのように、その手で私の頬を触れて。
 遂に彼は計画のまたひとつ奥に隠していた事実を明かす。

「貴方が本当に結婚するのは、僕となのですから」

 夢世界の新たな秩序を誇示するため、アダムと私との婚姻関係は「」としてどうしても外せない。
 夢を与える私と、夢を奪うアダム。
 対称な2人が仲良く隣同士で過ごす「」は、この上ない象徴だ。

 けれど、フレイグさんはそこで笑みを消した。
 瞳が熱っぽく、とても真剣に私を捉えている。

「僕は非常に分かりやすく貴方を口説いていたつもりなのですが、どうしたものでしょうか……」

 その視線にややもすると怒気も含まれ始めて、私は更に悪寒を覚える。
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