【曦澄未満】寛解
何故話してくれなかったのか。
何故。
そんな問い掛けばかりがぐるぐると巡り続ける。
眩暈を覚え、吐き気を催し、それでも尚理解出来ずに落胆する。
分からない。
「あれほど長く傍にいて語り合ったのに、私は阿瑤(アーヤオ)のことを何も知らなかった。あれほどの惨事を引き起こしたことを目の当たりにしても尚、どうしても信じられない」
あの阿瑤に、そんな大それたことが本当に出来たのか。
決して弱い人間だとは思わない、けれど、それは藍曦臣(ランシーチェン)が見てきた強さとは違うものだ。
今まで自分が見てきた金光瑤(ジングァンヤオ)という姿は、何だったのだろう。
「世間からの酷い言われようも何度も教えてもらいました。以前の夷陵老祖(いりょうろうそ)のよう、だ、と」
藍曦臣はその言葉を口に出してから気付く。
つい、弟から聞いたことをそのまま喋ってしまったが、今隣にいる相手にとってこの言葉は神経質になるものだった。
気まずさを拭えず、しかし黙ってしまう藍曦臣に、江澄(ジャンチョン)は呟く。
「構わん。続けてくれ」
それはいつものように淡々とした口調だった。
けれど、毒針のような痛みはどこにもなかった。
思いがけない柔らかな気遣いに、藍曦臣は平静さを取り戻していく。
「……酷く、広く嫌われた、と、聞かされ。頭では納得は出来るのです。あれだけのことをしてしまったのだから。でも……でも、だからと、言って」
それを信じてしまえるのか。
事実であることは覆しようのないことだけれど。
私は。
「……俺は、一時期全てを喪いました」
空になった湯飲みを盆に戻し、江澄が口を開いた。
そのことも勿論知っている、そう返事をするつもりで藍曦臣は頷いて見せる。
「俺が抱いた絶望は、もうどんなに叫んでも愛に応えてくれる人がいないという、己の身の上でした」
家族も、一門も、果ては故郷までも奪われた。
その血と欲に塗れた穢らわしい力に。