【曦澄未満】寛解
家の者以外と話すのは、一体いつ以来のことだろう。
藍曦臣(ランシーチェン)は湯飲みに視線を落とし、水面に映る自分の目を見詰める。
互いに黙ったままだった。
話をしたくないわけではない、江澄(ジャンチョン)はともかく藍曦臣はそう考えている。
けれど、では何を喋ればいいのか。
もう長いこと閉関を続けていた藍曦臣は、以前のような豊富な話題は持ち合わせていなかった。
もうずっと、同じことに囚われ続けたままだ。
「まるで檻だな」
ぽつりと零された江澄の言葉。
藍曦臣は顔を上げ、不思議そうに隣の江澄の横顔を見た。
けれど江澄は真っ直ぐ前を見詰めている。
視線の先は、窓だ。
換気用の小窓で、外から柵が備え付けられている。
この窓のお陰で昼間はとても明るい。
嫌だと思っていても顔に陽が射すほどだ。
「……そうですね」
檻のよう、とは、そうかも知れない。
藍曦臣は江澄のその呟きに、静かに同意をしてみせた。
目を閉じれば脳裏に浮かび上がる人影。
それが怖いときはこの窓から空を眺めていた。
柵越しに見える、雲や木の葉、名も知らぬ鳥達。
本当に、分からないんだ。
「いくら考えてみても、本当に分からないのです」
力なく、湯飲みを持ったままの両手を膝の上に落とす。
藍曦臣は絞り出すような、それでいて何か堰を切ったかのような勢いで、喋り出した。
「どうして阿瑤(アーヤオ)はあんなことになったのか、あんなことをしたのか、未だに何も分からない」
延々考え続けて、自分にも悪いところがあったせいでは、と何度脳内でやり直してみても、最後がどうしても変わらない。
何故あんなに多くの犠牲を出さなければならなかったのか。
何故金光瑤(ジングァンヤオ)は聶明玦(ニエミンジュエ)の身体をあんな風に使ったのか。
何故自分はそんな金光瑤の考えに気付けなかったのか。