死神にはなりません!
出て来たのは、ネイビーのショートカットですらりと背の高い女の人。
燐さんに似たスーツを着ていた。
かっけぇとちょっと照れる俺に代わって、未咲が説明する。
「谷川燿だよ。暫くあたしたちで面倒見ろって閻魔様が」
「えっ、そうなの?!」
閻魔大王の名を聞いた途端、女の人の瞳を輝きが増した。
あれ、と思った俺に、女の人がにっこりと笑う。
「初めましてー新米死神くん。わたし、室長の
そう真夜さんが言ったので、俺はつい訂正してしまう。
「あ、俺まだ完全に死んでなくて……その、スンマセン」
「はぇ?」
全然悪いことしてないのになぜか謝ってしまった。
すると真夜さん、きょとんと俺を見詰めてくる。
どういうことと未咲に訊ねる真夜さん。
未咲はしょぼんとしながら自分のミスの話をした。
間違って、助かるはずだった俺の魂を刈ってしまったことを。
「はぁー。そっかぁ。未咲またやっちゃったわねぇ」
「ごめんなさい真夜さん……」
本当に凹んでいる未咲の頭を、真夜さんはぐしゃぐしゃと撫でた。
「まぁまぁ、何とかなるって。起こったことはもうしょんないから、ほら、前向いて」
真夜さんの朗らかな励まし。
未咲もゆっくりと顔を上げて、はい、と返事をしていた。
素敵な人……いや死神だなぁと感心していた俺に、真夜さんが話し掛ける。
「それに、あんたも頑張んなさいよ燿! ナメて掛かると怨霊に呑まれるんだからね!」
「っ、は、はい!」
真夜さんの言葉に急にどきりとして、俺は慌てて返事をする。
そうか、それくらい怨霊って危険なんだ……。
未咲にも言われたことだけど、まだまだ実感がなくて軽く考えていた。
そんな呑気な俺に突き刺さる視線。
俺が顔を上げると、何やら俺を品定めしているような目付きの真夜さんに気付いた。
真夜さんは暫く俺を観察したあと一言告げた。
「弱そうね」
そんなきっぱりと!?
あまりの率直さに、俺は完全に固まった。
弱そう。
うん、あの……いやいや。
まぁ確かに相手は死神さん。
人間が勝てるような存在ではないかも知れない。
にしたって一応俺も男なんですよ。
多分年上と思われるけど、女性に「弱そう」と言われるのは……心外。
一通り考えて、俺は何かを言い返そうと思ったらしい。
しかし俺が声を発するより先に、真夜さんが喋り出す。
「この子の鍛錬には時間が掛かりそうねぇ。死んでもいないっていうし……どうやって鍛えればいいのかな?」
顎に手を添えながら真夜さんは真剣に考えていた。
同時にその発言は俺の男としてのプライドに追い打ちを掛けていたのだが。
俺そんなに弱そうなのかな。
何だかやる前から脱力してしまう。
やる気失せそう、と涙目の俺に、真夜さんは訊ねる。
「燿、特技はある?」
「特技?」
いきなり何の話だと思いながらも、俺は考える。
特技……と言われても、別段特別やっていることはないし。
うーんと必死に考えて思い付いたのは。
「……玉ねぎのみじん切り?」
「何それ」
必死になって出て来た結論に、未咲がきょとんとしている。
何って言われても、文字通り玉ねぎをみじんに切ることですが。
しかしそう答えても、未咲はおろか真夜さんもきょとんとしている。
逆に俺が、え、と驚く始末。
俺、何か可笑しなこと言いました?
「……もしかして、料理ってやつ?」