死神にはなりません!
うっかり怖気付いてしまった。
しかし隣からの未咲の反応に、俺の知識は此処では異なっていることに気付く。
「怨霊を?! あんな危険な奴らと戦えと?!」
未咲が本当に慌てた様子で叫んだ。
危険なのと繰り返す俺に、未咲が教えてくれる。
「怨霊っていうのは、死を受け入れずに暴走した魂たちのことなの。この霊界の周囲を取り囲むようにうろついてて……あわよくば死神を自分たちの方へ引き摺りこもうと企んでる奴らよ」
加えて、怨霊という存在は死を拒んだものの、ゆえにその先にも進めず勿論戻ることも出来なくなった状態。
にっちもさっちも行かず、永遠に「其処」に留まるしか存在出来なくなっているという。
死を受け入れれば次の命に転生も出来るのに、現在の意思のみで考えるので怨霊と化してしまった。
その代償は、「永遠の闇」に彷徨い続けるという地獄。
「ゆえに、とにかく怨霊は野蛮で大群で襲い掛かってくる。そんな危険な相手と……」
未咲がそう不安そうに俺に告げたのち、閻魔大王を見た。
閻魔大王は相変わらず無表情で、じっと俺たちを見ている。
どういうことですかと未咲の声に、少しだけ怒りが滲んでいた。
未咲、怒ってる。
何で、と思う俺は黙ったまま。
閻魔大王が口を開いたせいもある。
「……何も、独りでやれとは言わぬ。それに、今回は怨霊の壊滅が目的ではない」
「え……?」
溜め息を吐き閻魔大王が説明した。
話はこういうことだ。
「燿には、未咲、お前と真夜(まや)を付ける。標的は現れたときに連絡を入れる。それまで燿を鍛錬しておくんだ」
閻魔大王はそれだけ言うと、仕事に戻ったのか何やら作業を始めてしまった。
鍛錬、と繰り返す俺の隣で、未咲が閻魔大王に向かって頭を下げる。
失礼致しましたと呟くと、未咲は俺を引っ張って閻魔大王の部屋から出て行った。
「え、何、今ので話終わり!?」
いまいち話が掴めなかった俺は、俺を引っ張って歩く未咲に問い掛ける。
未咲は「そーよ」とだけ言ってそれ以上は何も喋らない。
ただ俺の腕を掴んだまま、ずんずんと廊下を進む。
何だろう。
未咲……拗ねてるような。
「げ」
きょとんとそんなことを考えていた俺に未咲の低い声がした。
未咲が立ち止まったので、ん、と反応して俺も止まる。
正面を見るとひとりの黒いスーツ姿の男性が、こちらを見て突っ立っていた。
何だろう……その男性の表情が、この世の終わりのような引き攣ったものだった。
「み、未咲……? その男は……何だ……?」
喋ったと思ったら、いきなり俺についてだった。
未咲の知り合いかと理解したのも束の間、「ちっ」という舌打ちが聞こえて、俺は再び引っ張られる。
未咲、その男性を無視して通り過ぎようとしたのだ。
「待て未咲!」
「ちょ、未咲っ?」
男性の横をそのまま通り過ぎようとした未咲を男性が呼び止める。
状況を理解出来ていなかった俺も、うっかり未咲を呼んでしまった。
しかし未咲は全く聞こうとせず、黙ったまま。
とうとうそんな未咲に手が伸びる。
「未咲! 返事くらいしてくれ!」
男性が未咲の肩を掴むと、ぐいと未咲を引っ張った。
同時に俺の腕から未咲の手が離れる。
「っ!」
振り向いた未咲の顔は本当に嫌そうな、不機嫌なものだった。
しかし男性はそんな未咲の表情には全くお構いなし。
「未咲! 私以外の男と一緒だなどとは許し難い! お前もお前だ、何者だ貴様!」