死神にはなりません!


「じゃ、じゃあ燿を人間界に……わたしはどうなっても構いませんので、どうか戻して……!」
「落ち着け未咲」

 自分の命と引き換えに、どうしても俺を助けてくれようとする未咲。
 しかし閻魔大王には呆れたような表情をされていた。
 溜め息を吐きながら、未咲を諌める閻魔大王。

 言葉を途中で切って黙り込む未咲に、閻魔大王は続ける。

「未咲が犠牲になる必要はない。ただ、今のままでは谷川燿を人間界には帰せぬ」
「えっ!」

 頬杖を着いて閻魔大王はそう教えてくれた。
 俺と未咲がほっとするのも束の間、再び予期せぬ発言がなされた。

 今のまま、では?

「ど、どういう」

 緊張感漂う未咲の声。
 すると閻魔大王はさっきとは別の用紙を自分だけが見ながら返す。

「誤りとはいえ、一度は刈ってしまった魂だ。戻すには時間も手間も掛かる」

 閻魔大王の言葉を俺は真剣に聞いていた。

 一度切り離した魂を再び同じ肉体へと入れ直す。
 それにはかなりの労力が必要とのこと。

 しかし理由はそれだけではないようだった。
 閻魔大王は何やら用紙を見ていた視線を俺に投げてきた。
 どきりとする俺に向かって、閻魔大王は話す。

「だが、肉体が魂を拒絶することもある。それを回避するために、お前には一仕事片付けてもらいたい」

 え。

 一仕事っていう単語にも驚くけど、それよりもショックなのはやっぱり前半部分。
 肉体が、拒絶する……。
 やっぱり一度切り離すと戻れないってことがあるんだ。
 死ぬってそういうことなんだな。

 ふと母さんのことを思い出し俺は何も言えずに俯いた。
 そんな俺に代わって、未咲が閻魔大王に訊ねる。

「その、仕事というのは?」

 未咲のその訊ね方にもいろいろな受け取り方のニュアンスが含まれてる。
 閻魔大王は俺とは別の受け取り方をしたらしい、椅子の背もたれに寄りかかりながら説明する。

「言うなれば適性検査だ。魂にまだその肉体と共に生きるつもりがあるのかを見る。同時に、谷川燿そのものに、生きる覚悟があるのかどうかも」

 そう、俺がやらなければならない仕事の意味を教えてくれた。
 なるほどと納得する未咲。

 俺は自分の右手を見詰めながら、閻魔大王の言葉の真意を考える。
 俺にまだ、生きる覚悟はあるか、か。
 仮死状態とはいえ、まだ頑張って生きようともがく肉体と一緒に、俺の魂は生きていこうと思っているのか。

 俺はすっと顔を上げて、閻魔大王を見詰めた。
 閻魔大王は既に俺を見ていた。
 返答を待っているらしい。

 まだ仕事の内容も聞かされていないけれど、ここで決めなければきっと話も前に進まないんだろう。
 だったら俺は、こう言うしかない。

「……やります。俺、まだ生きていたいです」

 俺の返答に閻魔大王は静かに瞳を伏せる。
 そうかと小さく答えて、閻魔大王は身体を机の方へ戻した。

「それで、何をすれば……?」

 閻魔大王が黙ってしまったので、俺から話を進めようとする。
 閻魔大王は伏せていた瞳を上げて溜め息をひとつ吐く。
 そして俺を真っ直ぐに見て、告げる。

「怨霊退治だ」

 ……怨霊?

 ぽかんとした。
 怨霊って、よく心霊番組で見るタイプの……怖い奴?
 え、まじ? 俺が退治出来る存在なの?
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