死神にはなりません!
取り敢えず着替える。
制服を洗濯する。
顔を洗う。
殴られた頬の確認。
その前にシャワー浴びちゃえばよかった。
何てことをいろいろやって、ようやくベッドに横たわる。
ベッドの上には、部屋に入ってすぐ放り投げた筒状の鎌がそのままになっていた。
それを掴むと、此処でもう一度鎌になるのか確かめたくなった。
けれど、こんなところでそういうことしてもいいのか分からなかったので自粛する。
鎌をベッドサイドのテーブルに置き直すと、俺は布団に潜り込んだ。
よく眠れるだろうなぁなんて、予想というか期待していた。
しかし。
『随分時間が掛かったな』
そこは、きっと夢の中だった。
けれど俺は普通に、目の前の男と会話をしていたんだ。
意識的に、自分の言葉で。
『……え?』
いきなり話し掛けられて取り敢えず驚く。
目の前の綺麗な顔した男をまじまじと見詰めて、俺は周囲を確認する。
変わった風景が広がっていた。
何色というのだろうか。
エンジ色というかレンガ色というか、そういう黒掛かった赤をベースにしたマーブル模様が一面に広がっている。
炎の中ってこんな感じかも知れないと俺は咄嗟に思う。
そんな空間に俺と、目の前の男。
男は黒の短い髪に切れ長の赤色の瞳をしていた。
着ているのは何だろう……着物みたいな和服だった。
ぽかんとしている俺にその男は喋る。
『まぁ仕方ない。お前は死神ではないからな。エネルギーの絶対値が足りないことは閻魔も重々承知だったはずだが』
『えっ、え……? どゆこと?』
もしかしてと俺は何となく感付く。
まさかこいつ。
『お前もしかして――鎌?』
俺のそんな推測に、男は怪訝そうに視線を向ける。
『でなければ何だと言うのだ』
……うわぁ、俺の苦手なタイプ!
咄嗟に燐さんを思い出して表情を歪めた。
そんな俺には構わず、鎌は話を続ける。
『しかしまぁ、何とか足りないエネルギーも補完出来たようだし、これならいけそうだ』
独り言のようにも聞こえるけど、俺は恐る恐る鎌に話し掛けてみる。
『あの、どういうことですか? エネルギー不足とか』
今のこいつの話を一応理解した上でそう訊ねた。
鎌はちらりと俺を見て、溜め息を吐く。
『本当、何故に俺はお前と契約出来たんだろうかなぁ』
話飛ぶなぁ。
今度はいきなり後悔し始めた。
こいつに会話の主導権持たせてたら進まないなと気付いたので、俺がそれとなく誘導する形に運んでいく。
『質問されたことには答えて下さいねー。愚痴は俺にもありますし、おあいこですよ』
そんな俺の言葉に鎌が食い付く。
ほう、と腕組みをして俺を見て、鎌はちくちく文句を垂れる。
『いい度胸だな、人間の分際で。この俺を目覚めさせるだけのエネルギーもなかったくせに』
『知りませんよそんなこと。だから訊いてんでしょーが。全てが終わったら文句も愚痴も聞くんで早く教えて下さい』
そこまで言うと鎌も面倒くさくなったのか、「分かった分かった」と俺の質問に答えてくれることになった。