死神にはなりません!


 部屋棟に向かいながら不意に未咲が俺に訊ねる。
 俺も身体中が重たくて痛いなぁと思いながら、ああ、と返事。

「何とかまぁ。多分行けると思うけど……何で?」
「えっ、いや、別に深い意味は……」

 未咲の申し出は有り難かったけどと思いながら、俺は逆に未咲に訊ねる。
 未咲はどきりとして言葉を濁した。
 そんな俺たちを真夜さんが呼び止める。

「ちょっとー鎌落ちてるんだけど、誰のー?」

 えっ。
 吃驚して立ち止まって振り向く俺たち。
 未咲は自分の分を確認して、ある、と呟いている。
 俺も慌てて自分の周辺をチェックするが。

 ない。
 ということは。

「……燿の?」

 未咲が息を呑んで俺を見詰めた。
 俺は真夜さんが立っている場所まで走って向かった。
 地面に投げ捨てられたままのように置いてけぼりになっていた鎌。

 そうだ、確かあの時。
 俺は黙ってその鎌を見詰めて、ゆっくりとしゃがみ込んだ。
 そして右手を伸ばす。
 鎌の柄に触れたとき、どくんと大きく全身が脈打つのが分かった。

 それは見ていた真夜さんにも分かるほどの違和感だったらしい。
 燿、と真夜さんが不安そうに俺を呼んでくれた。
 けれど俺はしっかりと鎌の柄を掴み、持ち上げると同時に立ち上がった。
 確かに俺の鎌だった。

「わぁ……わぁぁぁああ! 燿やったねぇぇぇっ!」

 こちらに駆け寄って、未咲が俺に抱き着かんとばかりに飛び跳ねる。
 俺にも何だかよく分からないけれど、うんと笑って頷いた。
 まずはこれで、鎌を扱う資格を得たって感じだ。

 でも。

「……これ、どうやって戻すんですか?」

 鎌を隅々まで見てみながら俺は呟く。
 そういや戻すボタンとかそういうのないな。
 そんな俺に、嫌ねぇと真夜さんは可笑しそうに笑った。

「鎌にするときと同じよ。一回振り下ろせばいいの」
「っあ、そうなんすか……」

 あまりにも単純で、且つ自分の考えていたことが恥ずかし過ぎて俺は赤面する。
 そして鎌を振れる広さを周囲に取って一度鎌を振り下ろした。
 鎌は音も立てずにいつもの筒状に戻った。

「よし、じゃあ部屋戻ろー」

 さすがにキツイと真夜さんが肩を回しながら呟いている。
 まじスンマセンとそんな真夜さんの背中に向かって、念じるように謝る俺。

 そんな俺にさっきから未咲からの視線がちらちら刺さってくる。
 何だろう。

「未咲? 何か?」

 斜め後ろを付いて歩いてくる未咲を俺は振り向く。
 未咲は俺の声に吃驚して、慌てて視線を外している。
 どうしたの本当に。
 しかし未咲は何か都合が悪くなったのか、かぁーと頬を真っ赤にして、いきなり駆け出す。

「なっ、んでもないよーっ!!」

 そしてダッシュで部屋棟に向かって走って行ってしまった。
 真夜さんもきょとんとそんな未咲を見送っていた。
 何なんだあの子。

 そのまま部屋棟の出入り口で真夜さんと別れて、俺は男部屋の階段を上がっていく。
 部屋番号を確認して鍵を開ける。
 ベッドを見ると、そのままダイブしたくなる衝動に駆られた。

 でも相変わらず制服は砂と埃まみれだし、つうか燐さんに殴られた頬も冷やしたい。
 など、やりたいことが沢山あったので、そのまま寝るわけにはいかなかった。
43/43ページ
スキ