死神にはなりません!
隣で見ていた未咲が吃驚して叫んでいる。
俺は額に手を当てて、何すかと涙目で真夜さんに返す。
燐さんに頬を二度も殴られた後なんですけど?!
そんな風にやや怒りを見せる俺に、真夜さんははっきりと告げる。
「何怖気付いてるのよ。しっかりしなさい」
「……え?」
真夜さんの怒号。
その時は意味が分からなかった。
きょとんとする俺に、真夜さんは真っ直ぐな瞳を向けたまま続ける。
「ちゃんと考えなさい。このままあの怨霊を野放しにしておけば、被害は広まる一方なのよ。閻魔様はそれも見越して、あんたに機会を下さったのよ」
真夜さんはそう言うけれど、俺にはやっぱり納得がいかない。
俺はそこで初めて真夜さんに口答えした。
「馬鹿言わないで下さい! 何がチャンスなもんですか! 俺にそんなこと出来るわけないでしょう!」
「どうしてそう決め付けるの。閻魔様はそんなに愚かじゃないわ。燿ならやり遂げられると分かっているからの指示でしょう?」
「そういう問題じゃない! 何で自分の母親を殺さなきゃなんないんですか!? ただでさえ喧嘩別れした、俺が……っ」
反論しながら俺は、色んな気持ちが溢れてしまって。
五年前の記憶。
焦燥し切った父さんの顔。
幼心に後ろめたさを背負った俺。
母さんのいない生活。
俺は。
「っ……俺のせいで死ななくていいのに死んだ母さんを、もう一回殺せだなんて!」
どうして、そんな無理を言うの。
一瞬、音が鳴り止んだ。
静まり返ったその場では、未咲の微かな呼吸ですらはっきりと聞こえた。
罪悪感しかなかった。
この五年間、生きた心地なんかしなかった。
確かに楽しかったよ、嬉しいこともあった。
でもそれ以上に、俺はつらかった。
何もかもが俺を責めていた。
父さんは口には出さなかったけれど、きっと俺を憎んでいると思えてならなかった。
友達もみんな、「燿は自分の母さんを殺した」と思っているんだと。
空も太陽もみんな俺の悪事を知っている。
だから、怖いんだ。
「……今更……母さんに合わす顔なんか、ないのに……」
それなんだ。
嫌なのは、どんな顔をして母さんと向き合えばいいのか分からないこと。
喧嘩して、謝りもせず死なす羽目になってしまった母さんに、俺なんかが会ってもいいのだろうか。
項垂れる俺に、そっと未咲の手が添えられた。
俺はその手を掴むことも出来ず、ただ嗚咽のような低い声を出した。
「出来、ません……。俺には、出来ないんです」
逃げたとでも負けたとでも、何とでも言える決断だった。
でも、その時の俺はそれでいいと思っていた。
母さんに嫌われた事実を突き付けられるくらいなら、逃げてしまいたかった。
「お前は酷い子だ」と、「お前なんか産まなきゃよかった」と言われるよりは、ずうっとましだった。
けれど。
「それが何よ? 理由になんかならないわよ」