死神にはなりません!


 その言葉も何もかも、どうしてこうも俺を追い詰めてくるんだろう。
 俺に、どうしろって言うんだ。

「考えてみろ。お前の母親は、死したことを受け入れられず怨霊と化してしまった。すなわち……お前が母親を倒すことは、母親の解放にもなるのだ」
「……」

 嫌だ。
 聞きたくない。
 そんな尤もらしい言い方で、言葉で、丸め込まれそうなのが嫌だ。

 俺は首を横に振って、閻魔大王の言葉を拒絶する。
 燐さんの舌打ちが聞こえてきたけれど、俺は俯いて黙ったまま。

 ああもう、どうすればいいんだよ。

「あの怨霊の群れはしつこい上に性質が悪い。ほとほと手を焼いていたところだ。その原因が、お前の母親なのだ。手強いとも言える。早々に手を打ちたい」

 すると、閻魔大王が俺と視線を合わせるようにしゃがみ込んできた。
 閻魔、と驚く燐さんの声で、俺は顔を上げ閻魔大王を見る。

 閻魔大王はいつもの無表情な目付きで俺に話す。

「燿。この一件を任せられるのは、お前だけだ。お前だけがその手で、母親を助けてやれる。いいか、これは絶望ではない、救済だ」

 なんて、それっぽいこと。

 俺はそれでも何も返さず、ひらすら沈黙を続けていた。
 だって、母さんを殺すことに変わりはないじゃないか。
 それだけは出来なかった。

 何も反応を見せない俺の前から、閻魔大王が立ち上がる。
 本当に話をしに来ただけと言わんばかりに、その場を後にする。
 どうやら燐さんも閻魔大王と一緒に戻ってしまったようだ。

 はぁー、という真夜さんの盛大な溜め息がその場に響いた。

「心臓に悪いわー。閻魔様も来るなら来ると仰って下さればいいのに!」

 などと文句を垂れる真夜さんだけど、心なしか、その声はやや弾んでいた。
 俺はそんな嬉しそうな真夜さんの声でようやく顔を上げる。

 腕組みをしている真夜さんの隣で、未咲が怪訝そうな表情で溜め息を吐いていた。

「あっ、燿! 痛かったでしょ!?」

 不意に未咲と視線が合って、未咲が思い出したように俺に近付いてきた。
 そして、燐さんに殴られた俺の頬を見て謝ってくる。

「ごめんね、燐の奴ほんとに。あたしからガツンと言っておくから!」

 未咲のそんな威勢のいい態度に俺は付いていけない。
 ああ、とやや上の空で返事をする俺に、未咲は戸惑っているようだった。

「未咲からそんなことされたら燐くん立ち直れなくなるわよ」

 そんな俺と未咲の気まずさを解消するかのように、真夜さんが冗談交じりに告げる。
 しかし俺も未咲も反応を示さない。

 俺は頭を抱えて、先ほどの閻魔大王の話を脳裏に蒸し返していた。

 俺の手で、母さんにとどめを刺す。
 怨霊と化したとは言え、あれは紛れもない俺の母さんだ。
 たったひとりの、俺が死なせたも同然の。

 俺はどうすればいいんだろう。

「燿。ちょっと顔上げなさい」

 突き付けられた選択に恐怖して戸惑う俺を真夜さんが呼ぶ。
 俺は躊躇いながら、ゆっくりと視線から徐々に真夜さんの方へ顔を向けた。
 すると、真夜さんの右手らしいものがすぐ目の前にあって。
 その中指が俺の額を叩いた。

「いてっ」

 いわゆるデコピン。
 真夜さんは黙って、デコピンを俺に食わらせてきたのだ。

「真夜さん!?」
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