死神にはなりません!
「取り敢えず他の誰かがいる場所に行かないか? ほら、俺の魂も裁かなきゃいけないんだろ?」
俺の発言に未咲ははたと泣くのをやめる。
そっか、とその時気付いたらしい、そう呟いている。
未咲より先に立ち上がって俺は制服に付いた砂を払った。
「ごめん、あたしがこんなんで……えっと?」
うう、とまだ鼻声のまま喋る未咲。
俺の名前をまだ知らないことに気付いたらしい。
俺は立ち上がった未咲を振り向いて笑って見せた。
「燿(ひかる)。谷川(たにがわ)燿だよ」
俺の気丈な態度に、未咲も少しずつ落ち着きを取り戻していく。
ようやく泣きやんだ未咲に付いて、俺は見渡す限りの荒野を歩いて行く。
しかし寂れたところだなぁなんて考えつつ歩いていると、ひとつの建造物が見えてくる。
周囲は石造りの塀で囲まれていて、正面の門は高さも厚みも尋常ではなかった。
これ開けられるのかとビビる俺をよそに、未咲はその門に近付く。
そして開けたのは……門に備え付けられている通用口だった。
あ、此処から入るんだ。
期待外れを残念に思いつつ俺も一緒に通してもらう。
「此処が死神の事務所だよ」
事務。
何やら死神――ファンタジーらしからぬ単語が出てきて一瞬怪訝な顔になる。
そんな俺に気付かず未咲は建物の中へ入っていく。
確かに普通のオフィスビルみたいな……いやいや丸め込まれるな俺。
相手は死神だ。
こんな小奇麗な場所にいるわけない。
そう、あくまで自分のイメージを守ろうとしていた。
俺は先を進む未咲を追い掛けてビルの中を歩く。
やっぱり灯りは乏しい。
冷たい石の壁に、等間隔で括りつけられている蝋燭の火が弱々しく揺れている。
不気味っちゃ不気味だなと思いながら、俺は前を歩く未咲に訊ねる。
「で、取り敢えず誰に会うの?」
この調子だと検問とかありそうと俺は勝手に想像する。
しかし未咲は、うん、と頷くと淡々と述べた。
「閻魔大王に……直談判」
「え」
……え?! いきなり大御所に会っちゃうの?!
俺は吃驚して、何でと未咲に訊ねる。
すると未咲は足を止め、俺を振り向いて告げる。
「燿を、蘇らせてもらうの」
未咲のその強い眼差しに俺は一瞬息を呑んだ。
しかし、それが死神にとってのタブーだということをその直後に知ると、俺は動揺する。
死神にとって、自分が刈った魂を蘇生させたいと願い出ることは自身が消滅することと引き換えになるんだそうだ。
それを未咲がやろうとしていると知って俺は慌てて未咲に告げる。
「馬鹿! 何でお前まで死ななきゃなんねぇの!?」
「だって、それしかないもん。燿は何も悪くないのに、馬鹿なあたしのミスで……」
そう言われて、俺は微かに胸が痛んだ。
何も悪くない。
果たして、それは事実だろうか。
黙ってしまった俺の手を静かに解き、未咲は薄暗い廊下を進む。
待て、と慌てて追い掛ける俺も、とうとう着いてしまった。
何の変哲もない扉。
でもここだけ、空気が張り詰めていて重苦しい。
うわ、と緊張感を覚える俺の隣で未咲がその扉を叩いた。
未咲です、とだけ告げると、中から「入れ」という男性の声がした。
未咲がゆっくりと扉を開く。
中は廊下よりも少しだけ明るかった。