死神にはなりません!


 嘘だろ……。

「あれ?」

 青い着物姿のその女性は、真夜さんの背後の俺に気付く。
 まさか、と女性も俺の顔を見て、やや驚きの表情になった。

「……燿、じゃないの」
「え?」

 怨霊の群れの女性の口から俺の名前が出たことに、真夜さんが反応する。
 未咲も驚いたように俺を振り向いた。

 俺は下唇を噛んでその女性を見ていた。

 どうして。
 どうして……この人が。

「母さん……」

 俺の呟きに真夜さんも未咲も息を呑んだ。
 間違いない、母さんだ。

 でも、どうしてなんだ?
 母親が怨霊の群れを引き連れて霊界を荒らしに来ているだなんて、信じられなかった。

 母さんは暫く黙っていたあと、にっこりと笑った。

「……そう、燿も死んじゃったの?」
「っ!?」

 そんな笑顔で、何て事を。
 母さんのその笑みに恐怖と嫌悪を覚えた。

 でも俺は何も答えられない。
 黙ったままの俺に代わって、口を開いたのは未咲だった。

「違うわよ! 燿は死んでない! っまた、人間界に戻るために、お前たち怨霊退治を任されたのよ!」
「へぇ、あたしたちを?」

 未咲の言葉に、母さんが俺を見下すような視線を投げてきた。

 確かにそれに間違いはない。
 でも俺は母さんを退治するだなんて、聞いていない。

「ち、ちが……母さん」

 俺は慌てて、混乱したまま足を前に踏み出す。

 違う。
 そうじゃない。
 俺は、母さんを殺すつもりなんかじゃない。
 そうじゃなくて――

 何を言っていいのか分からず、俺はふらふらと母さんに近付く。
 しかし。

「燿っ駄目!!」

 慌てた声で真夜さんが俺の腕を掴んだ。
 途端、母さんの身体から物凄く重たい、黒い竜巻が発生した。
 吃驚して立ち止まる俺を守りながら、真夜さんが素早くその場を離れる。
 未咲も一緒に飛ぶように反応して、竜巻から離れた。

 母さんの発生させたその竜巻はその場一帯を包み込むと、ブラックホールのように全てを吸い込んでしまう。
 ぽっかり、そこだけ黒い空間が生まれた。

「あれは……」

 真夜さんに抱えられながら、俺が黒い空間を見詰めて呟く。

「怨霊への入口ってとこよ。あの〝気〟に触れたら最期だと思いなさい」

 真夜さんからそんな脅しのような忠告を受け、俺は冷や汗を落とした。
 ということは、母さん……は、本物だ。

 本物の、怨霊なんだ。

 そんな俺に母さんの声が飛んでくる。

「燿! あたしは怒ってないわよ。だから、こっちにいらっしゃい」

 母さんのそんな言葉に俺は身体を震わせた。
 母さんは俺を自分の方へ引き摺りこもうと、俺を怨霊化させようとしている。

 正直、俺はきっと迷っていた。
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