死神にはなりません!


 燿、という、未咲の声がとても儚く聞こえた。

 そのとき微かに鎌に変化が見られた。
 俺の掌の熱が不意に消えたのだ。
 鎌がその熱を吸い取ったかのように、あっさりと。

 え、と思って、俺は鎌を凝視する。
 すると鎌から何やら光が漏れてきた。

 何、と真夜さんも気付いたのか、声がざわついていた。
 しかし残念ながら、真夜さんのその声の対象は俺のものとは異なっていて。

「――燿! 危ないっ!」

 真夜さんの切羽詰まった声。
 俺はふっと我に返って、真夜さんの声に振り向く。
 すると真夜さんが俺に向かって突進してくるではないか。

 な、と吃驚する俺を、真夜さんは庇うように抱き締める。
 直後、何か鋭いものが真夜さんの肩を掠めて光の速さで飛んでいく。

 ――?!

 俺は真夜さんと一緒に少しだけ吹っ飛んで地面に倒れ込んだ。

「真夜さん!?」

 ジャケットが破けてやや出血した真夜さんの肩を見て俺は叫ぶ。
 真夜さんはすぐに起き上がって平気と答えると、未咲を振り向いて叫ぶ。

「未咲! 怨霊よ!」
「っ!?」

 またか、と俺も未咲と同じ方向を見上げた。
 灰色の空を割ってわらわらとやって来る、怨霊の群れ。

 しかし今回異なったのは……。

「またあの連中ね。毎度懲りずに」

 真夜さんがそう呟きながら鎌を手にした。
 見ると未咲も既に臨戦態勢を取っている。

 出来れば俺も加担したいところだけどと思いながら、自分の手元を見る。
 全くもって無反応な鎌。
 やきもきする。

「燿はちょっと離れてて。悪いけど」

 真夜さんにそう告げられると、はいとしか答えようがなかった。
 未咲と入れ替わる形で場所を移る。
 真夜さんは未咲と一緒に怨霊の群れへと向かって鎌を差し向けた。
 俺は情けないけれど、真夜さんと未咲が見える範囲までその場を離れた。

 怨霊が数体、ふたりに向かって飛んできた。
 真夜さんは空中に飛び上がって、未咲は地上で迎え撃つ。
 ふたりともさすが、鎌を使い慣れている。

 どんどん仕留められていく怨霊。
 バラバラになった怨霊の四肢が地面に落下する様子を、俺はそわそわしながら見ていた。
 どうして俺だけ、こんなところでただ傍観しているんだろうと落ち着きをなくす。

 今回の怨霊たちは、前回――燐さんが助けてくれたときよりも弱い気がしていた。
 だって次々と怨霊たちは倒されていくし、まだ真夜さんも未咲も余裕が見られる。

 どういうことだろう。
 何だかそれが逆に怖いと思えた。

 多分、俺のその予感は当たっていた。

「何だお前たち。その様は」

 不意に聞こえた、女性の声。
 怨霊の群れの奥に隠れていたらしい、ひとりの女性が姿を見せた。

 嫌な予感がしていたんだ。
 だってその声に、聞き覚えがあったんだから。

 俺は怪訝そうに眉をひそめて顔を上げる。
 冗談だろ、と最初は空耳だと信じたかった。

 けれど。

「全く使えないねぇ。たかだか二体の死神相手に手をこまねいて」

 そう言いながらその女性は、真夜さんと未咲の前に現れた。

「――っ……!?」

 その顔を見て息を呑んだ。
 どくん、と脈が大きく打たれて、冷や汗が出て来る。
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