死神にはなりません!


 なんて逞しいお言葉。
 俺は真夜さんの発言に、じーん、と感動してしまった。

 そうだよ俺、怨霊に狙われているんだ。
 呑気に寝ている場合じゃないんだ、特に俺。

「はい、じゃあ……鍛錬お願いします!」

 俺のそんな威勢のいい返事に、真夜さんはにっこりと笑った。
 その笑顔にはまだ、女性らしさっていうか可愛らしさも残っていて。
 何だろう……真夜さんと接していると、妙に緊張する。

 そんなことを考えていた俺の耳に「はいはいはいっ!」という未咲の声が入ってくる。

「じゃああたしも付き合いますっ! ふたりだけに頑張らせるなんて黙ってられないっ!」

 そんな風に挙手しながら未咲が申し出た。
 何をそんなに躍起になってるのか俺には分からなかったけど。
 そんなやり取りをして俺たちはまた外へ向かう。

 今度出て来たのは建物の裏手ではなく、もっと広い場所だった。
 死神の働く建物の正門から表に出て暫く歩く。
 何もない、本当にただ広いだけの荒れ地に俺たちは来ていた。

「此処は? 何なんですか?」

 俺は何か意味があると勘繰って、真剣な顔で真夜さんに訊いた。
 しかし真夜さんはけろっとしながら「別に」と返す。

「以前みたくまた怨霊が大量にやってきたとき、被害が及ばないように広いとこ来ただけ」
「……やめて下さいよ、縁起でもない」

 真夜さんの配慮も理解出来るけど……ほんと、洒落になりませんそれ。
 俺がそうツッコミを入れると、あははーと真夜さんは笑って誤魔化してきた。

 まぁ、可愛いけど……そういうの。
 ちょっと照れながら、俺は以前真夜さんに教わったことを確認する。

 まず姿勢を整える。
 筒状の鎌を両手で構える。
 掌に力を集中させるように、掌に熱を感じるまでそのままでいる。

 頼む。
 反応してくれ。

 心の中で鎌に話し掛けてみた。
 確かに俺は不完全だ。
 死神じゃないし、死神になるつもりもない。

 鎌からすれば酷く中途半端な癪に障る存在だろう。
 でも、それでも俺は……。

(お前の力を借りたい)

 今だけだけど、頼む。
 そう鎌に話し掛けて、自分の決意も示したつもりだった。

 しかし、鎌からは何の反応もなかった。

「――っはぁ……!」

 無意識に止めていた呼吸を再開させる。
 ぎゅうと筒状の鎌を握り締めて、呼吸を整える。

「なかなか手強いわねぇ」

 俺の様子を見ていた真夜さんが考えるように呟く。
 ですねー、と俺は微かな疲労感を覚えて、気を紛らわすように空を仰ぐ。
 存外風が気持ちよかった。
 相変わらず空は灰色で、落ちてきそうなんだけど。

 そんな俺の現状に未咲も不安そうにしている。

「大丈夫……なのかな? このまま何も起きないと、話が前に進まないし」
「うーん。契約は出来たから、突破口はあると思うんだけど」

 未咲の言葉に真夜さんが意見を述べた。
 そう、契約したという事実はある。

 だから、何故反応してくれないのかが分からないんだ。
 そんなに俺の覚悟が信じられないのか。
 それとも、人間が嫌いなのか。

 ひとりでぐるぐる考えていても埒が明かない。
 俺はもう一度、掌に力を集める。

 さぁっ、という風の過ぎ去る音。
 空気の振動音が聞こえそうなくらいに、その場が静まり返った。

 じりじりと掌が灼けそうな感覚。
 俺は力んで、歯を食い縛って、鎌に力を送った。

 頼む。
 俺を、助けて欲しい。
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