死神にはなりません!


 未咲の表情が険しくなった。
 うっかり視線を外す俺を見てか、未咲が怒る。

「もー、駄目じゃん燿! 勝手に入っちゃ駄目な部屋なのに!」

 そんなこと言われても、と咄嗟のことに反論してしまう。
 じゃあ何であんな簡単に入れるのとか思うし、それに。

「だって未咲だって勝手に入ったじゃん! いいと思うよあれじゃあ!」
「あ、あれはっ……~~とにかく駄目なの! 次からはなし!」

 何故か自分のことは棚に上げて俺に怒鳴る未咲。
 納得いかない。
 むう、と不貞腐れる俺に、戻るよと未咲は怒ったテンションのまま告げた。

 いつもなら隣同士でも気にならないんだけど、今ばっかりは未咲の横に並びたくなかった。
 離れて廊下を歩いて、時間差で真夜さんの待つ部屋に戻る。

「……何よふたりとも。機嫌悪くして」

 真夜さんはきょとんとしながら俺と未咲の顔を見る。
 未咲は「何でもないです」と理由を話さずに席に着く。

 俺はというと、真夜さんには理由を話そうと思ってたんだけど、未咲のこの態度を見ていて思う。
 もしかして……黙っておいてくれるのかと。

 事実、俺はまだ〝鏡の間〟がどんな大事な部屋なのか分からない。
 でも未咲が「入ってはいけない」と知っているくらいだから、真夜さんも知っていることなんだろう。

 ということは。
 そのルールを破った俺を、未咲は守ろうとしてくれている……のか。

 とまで思ってふと気付く。
 未咲、自分も勝手に入ったこと隠したいだけかなと。
 ……だったらおあいこだな。

 俺も真夜さんに「何でもないですよ」と答えて自分の机に戻った。
 何も考えずに、書類の仕分けの続きを始める。
 なるべく死亡理由の欄には目を向けないようにしよう、と始めてから決めた。

 黙々と仕事を続けて、どのくらい時間が経ったのか分からない。

 此処には「時間」という概念がないらしいことにちょっと気付き始めていた。
 さっきから時計らしいものも見えないし、死神だからだけど食事も摂らないから休憩ってやつもない。
 とにかく、果てしない感じがした。

 永遠とはちょっと違う。
 微妙なニュアンスの差がそこには存在すると思う。

 そんなことを頭の片隅で考えつつ、ようやく書類の山をひとつ片付ける。
 するとそれと同時に何かが聞こえてくる。

 それは音楽だった。
 でも何だろう、スピーカーもないし変なノイズも混じってない。
 表現が正しいのならば、「脳内に直接音楽を流されている」ような――

「お、終わりだ」

 俺が音楽に気付いたのとほぼ同じタイミングで真夜さんが声を出す。
 終わり、と呟く俺に答えたのは未咲だった。

「うん、就寝の合図なの、この音楽。取り敢えず一旦休みなさいって」
「……ああ、そういうのあるんだ」

 時間という概念はないけれど、やっぱり「命あるもの」なんだ。
 休むことは必要らしい。

 でも唯一の休憩がこの就寝一回だけ。
 その他の時間……起きている間は働きっ放し、か。
 死神って……案外タフなんだな。

「さてー、就寝だけどどうする? 燿、鍛錬にする?」
「えっ?」

 ぐぐーっと背伸びをして真夜さんは俺に訊ねた。
 寝るんじゃないんですか、と吃驚しながら訊き返してしまう。

 すると真夜さんは吹き出してから、俺に笑って答えた。

「そりゃあたしの体力のこともあるけど、その間にあんたが怨霊に襲われたらどうするの? 少々の無理は承知の上よ」
33/38ページ
スキ