死神にはなりません!


 各部署の扉は全部同じ感じ。
 表札が小さくくっ付いていて、頻繁に色んな死神たちが出入りしている。
 別に学校ではないから、連絡事項とかいわゆる外回りとかで動きは活発にあるようだ。

 ぽてぽてと廊下を進んでいると、ふとあの部屋に近付いていた。
 俺は立ち止まってその地下への入口の前で佇む。

 その下には〝鏡の間〟がある。

 此処霊界以外の世界をランダムに映す部屋。
 俺は無意識に地下へと足を踏み入れていた。

 正直、入れるかどうかはまだ分からない。
 俺はまだ鎌と契約をしただけで、信頼関係は結べていないからだ。
 未咲は鎌を使って〝鏡の間〟へ入室していた。
 だから多分、俺もそうしないと入れないと思うんだ。

 地下へ着いてその扉の前で止まった。
 俺は筒状の鎌を手に取って、扉に当ててみる。

 最初は何の反応もなかった。
 やっぱり駄目かなと溜め息を吐く。

 でも気になった。
 今、父さんどうしているのかな、と脳裏にちらっと過ぎらせた。
 すると。

 キィ、と〝鏡の間〟の扉が開いた。

「え」

 吃驚して思わず周囲を見回す。
 しかし、他の誰かが開けてくれた感じはなかった。
 ……俺が、開けたのだろうか。
 不思議に思いながら、失礼しまーすと呟いて中へ入った。

 相変わらず不思議な空間だった。
 全面異なった場景の中に「それ」も映されていた。
 今回は天井に、病室のベッドで眠り続ける俺が映し出されている。

 俺はその面をじっと見入るように、同時に音を注意深く聞いた。
 父さんが俺のベッドの脇でずっと突っ伏している。
 今、向こうは夜のようだ。
 そんな俺の病室に看護師さんが入ってくる。

『谷川さん。少しは休んで下さい』

 看護師にそう声を掛けられ、父さんが顔を上げる。
 寝ていないのか目の下のクマが酷く、同時にとてもやつれていた。

『……いいえ、平気です。燿が頑張っているのに……僕だけ休むなんて』

 父さんはそんなことを言う。
 それが俺の心も締め付ける。
 そんなこと、ないのに。

 そんな父さんに、ですが、と看護師が続ける。

『息子さんが目覚めたとき、谷川さんが倒れていては……元も子もありませんよ。息子さんにも元気な顔を見せられるようにしましょう?』

 看護師さんの言葉に俺も強く頷いた。
 そうだよ、父さん。
 俺、元気な父さんに迎えられたい。

 そう俺が思ったときだ。
 ふっと父さんがこちらを見た。
 異世界にいるはずの俺たちの視線が合致する。

 え、と思う俺に、しかし父さんは気付いたわけではないようで、すぐに視線をベッドの上の俺に戻す。
 そして溜め息を深く零して、ええ、と頷いた。

『それも、言えますね……』

 父さんはそう答えると、看護師さんが用意してくれた簡易ベッドで寝ることになった。

 父さん……寝ずに俺に付きっ切りだったんだ。
 俺は泣きそうになりながら顔を伏せる。
 そして黙って〝鏡の間〟を後にした。

 地下から戻ってくると廊下の角から出て来た未咲の姿が見えた。

「燿! 遅いから探しちゃったよー」

 ああ、と未咲の声に返事をした俺。
 呑気に構えてたけど、ふと未咲に指摘をされると動揺してしまった。

「……燿、まさか〝鏡の間〟行ってたの?」
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