死神にはなりません!


「真夜さん、これはあたしが……」

 未咲がそんな俺に気遣って、俺の仕事を代わりにやろうと申し出る。
 しかし真夜さんはそれを許さなかった。
 あんたにはあんたの分があるでしょー、と真夜さんは未咲に告げる。

 確かに未咲の机にも書類の山が出来ていた。
 俺はそんな未咲を見て笑う。

「ありがと未咲。でも、ちょっとビビっただけだから」
「……でも」

 俺はそう未咲の申し出をやんわりと断る。
 未咲はまだ不安そうにしていたけれど、俺がさっさと作業に移ってしまったためか大人しく自分の仕事に入る。

 俺は書類の色を見て、未処理と処理済みを分けていく。
 未処理は赤、処理済みは青なのだ。

 どうやら最初は赤なのだが、死神が魂を刈るとそれと同時に青に変わるらしい。
 俺が仕分けをしている途中に、用紙の色がふっと赤から青に変わるなんてことも起こる。
 俺はその都度未処理の山から処理済みへとその用紙を移す。

 こういう単純作業は嫌いじゃない。
 でも扱っているものが、重すぎる。

 用紙には名前と顔写真と何故死ぬのかという理由が書かれている。
 病死、老衰、交通事故が大半である。
 中には他殺とか書かれているものもあったりして、そういうものを見れば見るほど俺は怖くなった。

 何をしているのだろうか、俺は。
 俺が殺すわけじゃないことはよく分かっている。

 でもこんなん、いじめみたいなものと一緒で、その人が死ぬということを事前に把握出来たのに、悪く言えば見殺しにするみたいな気分で。

 俺が悪い、ような。

 駄目だ、見てられない。
 ふうと溜め息を零して、俺は一旦書類から視線を外した。

 とても重たい。
 ただの一枚の紙なのに、これにはその人の人生が総て詰まっている、そんな気がした。

「よし、じゃあ燿。これ運んでくれる?」

 そんな休憩をしていると不意に真夜さんに呼ばれた。
 はい、と返事をして席を立ち、真夜さんの机に向かった。

 これというのは、真夜さんがやっていた仕事分の書類。
 これらを他部署に運ぶらしい。

「場所はね、二階の第三管理部。あたしの名前出せば分かるから」
「あ、はい」

 真夜さんの指示を覚えて、俺は分厚い束二つ分の書類を抱える。
 未咲に扉を開けてもらって、その第三管理部に向かう。

 一体どういう部署がいくつくらいあるのかはよく分からないけれど、今の俺にはそんなことを考える余裕はなかった。
 正直、束の間の解放って気分だった。

 あのまま書類の仕分けをしていたら、呪われそうっていうか……怖くて仕方なかった。
 この人たちもまだ生きたかっただろうし。
 そう思うとやり切れない。

 俺にはまだ蘇るチャンスを与えられているのにって、自分を責めてしまいそうになる。
 その必要はないのに。

 階段を下り、第三管理部の表札を探す。
 えーと、と呟きながらちょっとうろうろして、ようやくその文字を見付ける。
 表札は小さくてしかも汚れているのか真っ黒だった。

 見づらいと思いながら、第三管理部の扉をノックした。
 中からの返事に真夜さんの名前を出すと扉が開いた。
 出て来た男性に書類の束を二つ渡す。
 ご苦労さんと俺を労って、男性は扉を閉めた。

 あれ、と思う。
 俺について何のツッコミもなかったなぁ、と。
 それはそれで複雑になる、などと考えながらそのまま戻ろうとした。
 でもあんまり……足が乗り気ではなかったようで。

 頭とは裏腹に足が勝手に止まる。
 今あの部屋には戻りたくないと身体が拒否をしていた。
 おいおい、と自分にツッコミを入れてみるものの、足は抵抗を続ける。

 困ったなぁと呟いて、仕方なく方向転換。
 死神の職場を勝手に探索してみることにする。
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