死神にはなりません!


 母さんはどんどん離れていく。

『待って……待って母さん!』

 走っても追い付かない、呼んでも止まってくれない。

 どこへ行くの。
 どこへ行くの。
 どうして行ってしまうの。

 俺、が、怒らせたから――……?

「か……っっ!」

 闇の中へ姿を消してしまった母さんに手を伸ばし、俺は叫んでいた。

 気付くとベッドに仰向けになって、俺の右手は天井へと伸ばされていた。
 夢だと気付くまで、少し間が空いた。
 俺は上体を起こしてベッドの上で体育座りをする。
 膝を抱えて背中を丸めた。

 そうだ、俺、母さんと喧嘩したままなんだ。
 些細なことだったけれど、俺は家を飛び出すほど怒っちゃって。
 今思えば……あれは俺が悪いのに俺は素直に謝れなくて、不貞腐れて。

 顔を伏せて俺はじっと悲しみに耐えていた。

 謝りたい。
 そのとき、初めて大事なことに気付いた。

 俺、母さんに謝らなくちゃ。
 早く人間界に戻って、父さんと一緒に……。

 そこまで考えて俺は顔を上げる。
 それからベッドから降りて、着替えを探した。

 どうやら死神用の制服も一式揃っていたようなんだけど、俺は洗濯が終わっていた自分の高校の制服を再び着ることにした。
 俺はやっぱり人間なんだという自覚と、母さんや父さんたちとの繋がりをいつも意識したいという思いからの選択だった。

 ブレザーのボタンを閉めて、さてと顔を上げる。
 真夜さんを呼ばなきゃと思って、気付く。

「……どうやって?」

 確かに、呼んでねって言われたから、呼びたいんだけど。
 どうやって連絡するの?

 念のため部屋中を物色するが電話らしいものもない。
 念力とか使うのかなとか考えるものの、生憎俺にはその手の特殊能力はないし。

 さてどうすんだ。

 暫くひとりで必死に考えて、取り敢えず一旦部屋を出ることにした。
 鍵をちゃんと掛けて部屋番号を覚えてから、部屋棟の出入り口まで出てみる。

 すると。

「……これか」

 電話らしきものが出入り口の手前にちょこんと設置されていた。
 扉のすぐ傍の壁に括り付けられている。
 昔の電話機みたいだなぁと思いながら、受話器を取って……再び気付く。

 真夜さんたちの部署はどこだ。
 一応全部の部署の内線番号は備え付けのファイルに収まっているんだけど、俺はあの部署の名称すら認識していない。

 まずい。
 戻れない。

 俺は仕方なく自分の勘を信じることにした。
 そのまま受話器を戻して出入り口を後にする。
 えーっとと呟きながら、真夜さんたちの部署を探すことに。
 部屋に来た時のことを必死で思い出しながら俺は廊下を進む。

 すると、今までどこに居たんだってくらいの死神さんたちの姿が廊下にあった。
 皆、俺に気付くと怪訝そうに見てくる。
 何あいつ、知らない、とかいうひそひそした声も聞こえる。
 仕方ないけど結構気になる。

 というか、こんだけ死神さんたちがいるのであれば、ひとりくらい訊ねてもいいかなぁ。
 不意にそういうことを思い付いて俺は立ち止まった。

「あの」

 一番近くにいた男性に声を掛けた。

「うぉっ!」
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