死神にはなりません!
真夜さんはそう呟きながら一旦自分の部署に俺を連れて戻る。
俺を近くの椅子に座らせると、真夜さんは誰かの指示を仰ぎに部屋を出て行く。
ひとり、静かな部屋で俺は深呼吸をした。
さっきの真夜さんの発言をぼんやりと思い出す。
精神のエネルギーが何とかって言ってたっけ。
……何となく、だけど考える。
俺の心が、まだ此処に適応出来てないんだろう。
適応するというより困惑していると言えるのだろうか。
心が混乱状態なんだ。
確かに、幼稚園の女の子を庇って自動車に轢かれて、未咲に間違って魂を刈られて。
それで休む間もなく怨霊に狙われた。
そりゃパニックにもなる。
よくもまぁ俺も平静でいるわ、と拍手したくなるような気分だった。
精神体力が消耗されているとでも言ったところか。
俺はそこまで自分なりに理解すると、はぁ、と溜め息を繰り返した。
と、そんな俺の許へ大急ぎで駆けてくるような、盛大な足音が聞こえてくる。
何だと思って扉へ視線を向けると、勢いよくその扉が開かれた。
「ひっかるぅぅぅぅぅっ!!」
そう叫びながら入ってきたのは未咲だった。
吃驚するというより元気のなかった俺は、ぽかんとしながら未咲を見ていた。
未咲は俺の真ん前まで駆け寄って来て、矢継ぎ早に質問を繰り返す。
「だだだだ大丈夫!? 怪我ない!? 怨霊に襲われて、しかもあの燐に助けられたって……大丈夫!? 何か嫌がらせされなかった!? というより無事なの!?」
未咲、自分の中で情報が処理し切れてない様子。
思ったことを浮かんだ順にそのまま口に出している。
俺はその未咲の勢いに圧倒され、ああ、くらいにしか返答が出来なかった。
しかし、ああ、では未咲には真意が通じない。
「どっちなのよ! 無事なの? 大丈夫じゃないの!? はっきりしてぇぇぇ!」
何故かキレる未咲。
憤慨する未咲に俺は茫然としたまま固まった。
「こら未咲~。そんなに燿追い詰めちゃ駄目でしょ~」
そんな未咲を、いつの間にか戻ってきていた真夜さんが諌めてくれた。
何やらその手には鍵を持っている。
未咲は真夜さんの声に我に返ったのか、済みませんとしょげて謝った。
しかし何かに気付くと未咲は俺を見詰めてもう一度謝る。
「ごめん」
謝る相手は俺ということか。
俺はうっすら笑みを浮かべて首を軽く横に振った。
「じゃ燿、部屋案内するから」
話がひと段落したところで真夜さんが俺に告げる。
俺は何とかひとりで立ち上がって、真夜さんの後を付いて歩く。
未咲も一緒に行きたがっていたんだけど、真夜さんに「仕事してなさい」と指示されて留守番ということになった。
付き添いくらいいいのではと思って廊下を歩きながら俺は真夜さんに訊ねる。
「何で未咲、置いてくんですか?」
いつもよりもかなりゆっくり歩きながら俺は真夜さんを見上げる。
真夜さんは俺のペースに合わせながら、時々止まったり歩幅を狭くしたりしている。
うん、と真夜さんは本当の理由を教えてくれた。
「あたしも本当は駄目なんだけどね、他に居ないから特別に。本来、男部屋に女が行くとか、その逆も禁止されてるのよ」
「……そういう決まりなんですか?」
「そう、死神として守るべき規約」
真夜さんはそう言いながら、ひとつの扉の前で立ち止まる。
そして筒状のままの鎌を取り出して扉の中央辺りにかざした。
扉が認識して鍵が開く。