死神にはなりません!


「相手に信じてもらいたいのなら、まず自分が全部を預けるつもりじゃなきゃ。相手は一旦は拒絶してるし、それくらいの覚悟は見せて欲しいんじゃない?」

 要するに、俺は試されているのか。
 本当にこいつ――鎌を使いこなせるのか、と。
 なかなか上からだなぁなんて考えて、不意に悪寒を覚える。
 ぐしゅ、とくしゃみを一回。
 急に寒くなって俺は身を震わせた。

「どうした燿?」

 真夜さんがきょとんとしている。
 俺は自分の腕をさすりながら顔を上げる。

「いえ、何か寒くな――」

 寒くないですか、と真夜さんに訊ねようとしたんだ。
 でも途中で切ってしまうくらい、それは衝撃的だった。

 俺の視線が一点で固定されて固まったことに真夜さんも気付く。
 まさか、と言わんばかりに彼女は目を見開く。

「燿! 取り敢えず逃げなさい!」

 真夜さんがそう叫んで、俺を突き飛ばすように身体を押しのける。
 俺は真夜さんに言われたとおり逃げようと思った。
 でもその大群に、異様な光景を前にして、とてもじゃないけど足が言うことを利かなかった。

 灰色の空を割って落ちてきたその大群。
 赤や黒などのダスティな色をした肌。
 爛れた皮膚、零れ落ちそうな瞳、対照的な鋭い爪。

 そして、甲高い、汚らしい声。

 真夜さんはその大群に向かって構える。

「燿の匂いでも嗅ぎ付けてきたわけ? 怨霊あんたたち!」

 あれが怨霊、だ。

 俺はその不気味さに完全に呑み込まれていた。
 茫然と立ち尽くす俺に、その怨霊の大群の中の一体が狙いを定めてきた。

『ヒャアアアっアアぁぁアア!!』

 文字通り耳を突き刺すような叫び声を上げながら怨霊が飛び掛かってきた。
 燿! という真夜さんの声に俺は意識を取られる。
 え、なんて、などと呑気に返事をしていると、もうすぐ目の前に怨霊の手が伸びてきていた。

「ぅっわああああっっ!?」

 寸でのところで気付いて、慌てて不格好にその手から逃れる。
 思い切りバランスを崩して地面に転倒した。

 俺の手から鎌が離れて転がっていく。
 やべ、と思いながらそれを拾おうとする俺の視界に、地面に刺さる爪が見える。
 キラリと光る爪に、俺の引き攣った顔が映っている。

 見上げると、青い皮膚の怨霊が俺を見下ろして笑っていた。
 けれどその口からは唾液とも血液とも判断のつかない、腐ったような臭いのする液体を零している。

 キモ、と悠長に吐き気を我慢する俺に向かって怨霊は叫ぶ。

『シャッアアああぁぁアアア!!』

 地面から爪を抜き、そのまま俺に向かって鋭い爪の切っ先を突き刺してくる。
 しかし怨霊の爪は俺に届く前に宙で止まる。
 しかも爪は腕ごと、ぼとりと地面に落ちた。

「ギャッ!」

 途端、バラバラと四肢が切り刻まれた怨霊。
 そんな光景を目の当たりにして、俺は気が動転してしまいそうだった。

 そんな俺の肩を、ぐいと掴む感触。
 うっかり次の怨霊が来たのだと思って叫んでしまった。

「燿! あたし! いいから離れないで!」

 そんな真夜さんの声で相手が味方だと分かると、はっとする。
 俺は真夜さんの手を掴んで立ち上がった。

「多分誰かしら応援に来ると思うから、それまで頑張ってよ」

 真夜さんはそう俺に指示しながら鎌を口元で構え直す。
 そして、ぐっと膝を曲げると飛び上がった。
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