死神にはなりません!


 茫然と瞳を開く。
 俺は寒気を覚えて意識を取り戻した。
 さぶ、と呟きながら起き上がってすぐにド肝を抜かれる。

 ……何だ此処!
 一面灰色の空に、どんよりとして落ちてきそうな重たい雲。
 レンガ色をした地面に角張った岩々。

 そして……目の前にいる少女。

「ごめん、まじごめん」

 何か知らんが俺に土下座しながら謝ってるし。

「え、何? 何あんた?」

 土下座されるとはあまりいい気分ではなく、俺は少女に声を掛ける。
 すると少女は俺の様子を窺うように顔を斜めに上げて、視線を寄越した。

「……怒ってない?」

 恐る恐る訊ねてくる少女。
 いや、と俺はまず、事情の説明を求めるための呼応をしたつもりだった。
 しかし少女には生憎、「怒ってないです」という肯定の意で取られてしまったらしい。
 途端にがばっと顔を上げて、よかったーと呟いていた。
 何なの。

 少女は黒のセミロングで真ん丸の瞳をしていた。
 格好は白いワイシャツに黒のネクタイとベスト。
 そして黒のスカートを穿いて、足元はこれまた黒いエンジニアブーツである。
 そんな少女が大きく溜め息を吐いて、何やら続けて呟いている。

「いやー、よかった怒ってなくて。あたしのミスだけど、本人が納得してるんだったら問題ないよね!」

 などと。
 いや、そうじゃなくて。

「もしもし、君?」
「何? あ、あたし未咲(みさき)って言うけど」

 俺がそう声を掛けると、少女――未咲は律儀に名乗ってくれた。
 俺はその教えられた名前を繰り返して再度話し掛ける。

「何のことやら、俺にはまださっぱりなのですが?」
「……ん?」

 俺の問いかけに未咲がきょとんとする。
 いや、きょとんとしたいのは俺の方ですよ!
 笑みのまま首を傾げる未咲に、俺ははっきりと告げる。

「此処は何処で俺は今どうなってるのか、教えてくれます?」

 そうだよ俺、女の子庇って車道に飛び出して……。
 というところまで自分で思い出して、はっとする。
 まさか。

 血相を変えた俺に気付いたのか、未咲も表情を歪ませる。
 まさかと繰り返す未咲に、俺は問い詰める。

「まさか、此処死後の世界とか……言うんじゃねぇだろな……?」

 俺のそんな一言に、未咲が思いっ切り視線を逸らした。

 ……まじかよ!?
 え、何、俺死んで――

「だ、だからごめんってば!」

 再度未咲が土下座をして謝ってくる。
 いや、あの状況だったら死んじゃったのも仕方ないけどとか思って、そう言おうとした。
 しかし、未咲にはどうしても謝ってくる理由があった。

「あたしのミスなの! ほんとはあんたじゃない、幼女の魂を刈る予定だったの! ほらでもあの、人間いつかは必ず死ぬし……」

 な。
 未咲、どうやらかなりパニック状態の様子。

 じゃあ何だ。
 俺……間違って死んじゃった、の?

「――ばばばばばっ馬鹿野郎ぉぉぉぉ!」

 状況を理解して腑に落ちた俺に出来ることと言えば、怒鳴ることくらいだった。
 俺の突然の大声に、ぎゃっ、と吃驚する未咲。
 俺は未咲の顔にずいと詰め寄って怒鳴る。
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