死神にはなりません!
ふん、と鼻を鳴らして燐さんは再び歩き出す。
この人相当厄介なのかもと俺はそこで気付いた。
未咲が関わりたくないのも分かる気がする。
なんてひとり納得していたら、燐さんを見失いそうになった。
慌てて追い掛けると、すぐに立ち止まった燐さんに追い付いた。
閻魔大王の部屋に着いたらしい。
俺がちょっと上がった息を整える暇もなく、燐さんは閻魔大王の部屋に入っていく。
俺は一旦廊下で待たされ、ちょっとしてから中に入るように指示される。
さっきは椅子に腰掛けていた閻魔大王が、机の前まで出て俺を待っていた。
閻魔大王も随分背の高い人である。
身体のでかい人を前にすると純粋に怖いよなぁ。
なんて呑気に考えていた。
「燿。利き手を出せ」
閻魔大王に呼ばれて、そう指示された。
はい、と曖昧に返事をしながら閻魔大王に言われた通り、利き手である右手を出した。
すると閻魔大王が俺に近付いて来て、俺が出した右の掌に何かを置く。
筒状の鎌、だ。
それを俺と自分の掌で挟むように置いた閻魔大王が、急に圧を掛ける。
ぐんと引っ張られるかのような、押し潰されるかのような、相反する力が同時に掛かったような感触。
俺はその重みというか痛みに驚いて、慌てて右手を引っ込めようとした。
しかし右手はびくとも動かなくて、ただ引き裂かれそうなその力の圧の中にあった。
同時に、何かが俺の中に入ってくる感触も覚える。
耳鳴りがして、そのノイズに思わず目を瞑った。
次の一瞬には全てが終わっていた。
引力も重力もノイズも消えて、俺は止めていた呼吸を再開する。
はっ、と短く呼気を発して俺は顔を上げる。
閻魔大王が自分の手を戻しているところだった。
「契約完了だ」
それだけ告げると閻魔大王は自分の仕事に戻っていく。
茫然としたまま俺は自分の右手を覗いた。
そこには、さっき見たままの黒い筒状の物体が、何事もなく収められていた。
これで俺も、紛いとは言え死神なのか。
なんて感傷に浸っていたのだけど。
「いつまで居るつもりだ。早く出て行け」
燐さんのそんな声に急かされ、俺は早々に閻魔大王の部屋から追い出された。
静かに閉まる扉を見届けてから盛大に溜め息を漏らす。
変な人たちだなぁなんて感想を持ちながら、取り敢えずその場を離れた。
しかし。
「……どっちに行けば」
正直、目印になるようなものはない。
廊下はずっと同じ模様というか色味だし、扉の造りも全部一緒。
そう、同じ光景しか並んでいないのだ、此処は。
皆さんはどうやって見分けを付けているのだろうと不意に心配になった。
とにかく外に出ようと思い立って屋外に繋がりそうな場所を探す。
しかし不用意に扉は開けられないだろうと念のため警戒しながら。
機密事項みたいな部署もあるだろうし。
万が一、自分の本当の死期とか知っちゃったら嫌だし。
なんて縁起でもないことを考えていると。
「燿~」
廊下の向こうから俺を呼ぶ未咲の声。
駆け足で俺を迎えに来てくれたらしい。
未咲、と俺も未咲を呼ぶと、未咲は俺の真ん前で止まった。
「どうだった? 何も意地悪されなかった?」
心配してくれる未咲のその言い方が可愛くて、俺は思わず吹き出してしまった。
それに吃驚したのか、えっ、と未咲が慌てている。
「ななな、何?! 何が可笑しかった?!」
そうおろおろする未咲に俺は正直に伝える。
可笑しいわけじゃなくて。