死神にはなりません!
「おい、谷川燿」
やたら不機嫌そうに俺を呼ぶ低い声。
その人に初めに気付いた未咲が警戒心を露わにする。
俺もようやく燐さんに顔を向けると、燐さんは腕組みをして俺を睨んでいた。
「何よ燐。文句でもあるの?」
こちらも不機嫌丸出しの未咲が燐さんに先手を打って威嚇した。
しかし、燐さんは未咲とは不毛な言い争いはしたくないのか敢えて未咲には構わず、俺に話し掛ける。
「来い。閻魔大王がお呼びだ」
「え、俺?」
燐さんの発言に俺ひとりだけがきょとんとしていた。
何だろうと思いながら曖昧に返事をする俺の横から、真夜さんが燐さんに訊ねている。
「燿だけ? 付き添いは要らない?」
「要らぬわ」
真夜さんの質問というか何となくお願いにも聞こえるそんな言葉を、燐さんは斬って捨てる。
小さな声で舌打ちしてから真夜さんは俺にこっそり耳打ち。
「多分鎌くれると思うから、そしたらこの続きね」
「あ、はい」
真夜さんからの指示を受けて、俺は先に踵を返した燐さんを追う。
未咲が不安そうに俺を見ていたので、俺は「大丈夫」の意も込めて手を振った。
建物の中に入って燐さんに追い付く。
燐さんは相変わらず不機嫌なまま、俺に「間違っても話し掛けるなよ」といったオーラを発している。
俺もそんなに鈍感ではないので今以上、不用意に燐さんに近付く真似はしない。
でも、あんまり離れすぎると見失いそうなので、三歩分の距離と言ったところだろうか。
なので本当に会話がない。
しんとした廊下に俺と燐さんの足音だけが
「……燐さん」
「あァ?」
あれだけ話し掛けるなと言ってるだろうがと言わんばかりの形相で、俺に呼ばれた燐さんが振り向く。
本気で怖かったので一瞬謝ってしまいそうになった。
でも、俺はそういうことで呼んだわけではないので、咄嗟に用意していた言葉を思い出して伝える。
「あの、俺……は、人間に戻るために、ここに滞在しているだけなので……未咲とは何の関係にも、なりませんよ」
念のためというか自分の保身のため、燐さんには先に伝えておく。
未咲が万が一俺のことを恋愛対象として好きだということになっても、俺は此処にずっといるわけじゃない。
俺は人間として生きたいから、現在死神紛いなことをしているだけ。
だから、多分未咲のことは……。
「……ほう」
不意に立ち止まって、燐さんが俺を見下ろす。
俺よりも頭ひとつ分以上背が高い燐さんに見下ろされると結構な迫力である。
ん、とビビりつつ、俺も立ち止まって燐さんと視線を合わせた。
燐さんはそんな俺に言い放つ。
「お前は、自分が未咲に惚れるはずがない、と言うのか」
「……え。あ、はい、まぁ」
その時は、何故燐さんがそんなことを訊いてくるのかが分からなかった。
俺は燐さんのことを考えて、先回りして言ったつもりだったんだけど。
明らかに今の燐さん、怒っている。
何、と警戒しつつ緊張しつつ、俺は燐さんの次の言葉を待つ。
燐さんは俺を睨み付けたままこう続けた。
「図に乗るな。お前なんかに未咲を泣かされて堪るか」
……。
そっちですか。