死神にはなりません!


「あたしは燿の方が好きよ? 燐と違ってうざくないし」

 一刀両断!
 俺の方がビビるくらいの清々しさ。

 無言で叫ぶ俺の目の前では、燐さんが茫然となっていた。
 あ、微かに色素が抜けてる。

 完全にノックアウトされた燐さんを残し、未咲は俺を呼んで〝鏡の間〟から出て行ってしまう。
 俺は燐さんのことも気掛かりだったけれど、確実に俺が殺されそうだったので逃げるつもりで未咲を追った。

「おいおい未咲、幾ら何でも酷くないか?」

 階段を上がりながら俺は未咲に訊ねた。
 しかし未咲はそっぽを向いたまま、別に、と答える。
 未咲は相当燐さんが嫌いな様子。

 でも、何となく違和感なんだよなぁ。

「未咲……燐さんと何かあったりした?」
「はァ?」

 階段の踊り場で俺が質問すると未咲は立ち止まった。
 今までなかったガラの悪さである。
 こちらも不機嫌丸出しの表情で、未咲が俺を睨んでいる。
 俺はちょっと腰が引けつつも、未咲にもう一歩突っ込んでみる。

「その、燐さんのことが大っ嫌いになるくらい、ひと悶着あったとか……」

 例えば燐さんが未咲に失礼なことしまくったとか。
 そう考えながら話す俺に対して、未咲は盛大に溜め息をしてみせた。
 怒鳴られると身構える俺に、未咲はただ喋った。

「……そうね、甚大な迷惑を掛けられたかな」
「えっ!」

 思い出したのか、ち、と舌打ちをする未咲。
 これが結構怖いんだ。
 ビビる俺に未咲は教えてくれた。

「あんにゃろ、勝手にあたしのこと許嫁だとか決めて、その辺で言いふらしてるのよ」

 ……許嫁?
 許嫁、ってあれ? 婚約者ってことだよな。
 え。

「えっ、未咲って燐さんと結婚すんの!?」

 うっかり思い込みで話を聞いていたせいで、ついそんな大声を上げてしまった。
 そのため、思い切り未咲からの鉄拳制裁を受ける。
 鳩尾に入る未咲の右ストレート。
 俺は腹を抱えて蹲った。
 ガチでキツイ。

「ばッッッか! 話聞いてよ!」

 未咲が握り拳のまま仁王立ちして俺を見下ろす。
 俺は涙目で未咲を見上げて、済みません、と答えた。

 要するに、未咲にとっては突拍子もない戯言だということで。

「ほんと嫌なのよ! ただでさえあたし落ちこぼれなのに、あんなエリートもエリートの燐からの求婚とか! 格差激し過ぎて眩暈起こすっつの!」
「眩暈で済むのか」

 頭から何か湯気が出そうなくらい怒りながら文句を垂れる未咲。
 俺のそんなツッコミにも気付かず未咲は続ける。

「お陰であたしは死神内の笑い者ですよ!? どうせ燐は本気じゃないとか、いい気になるなよとか! 別にあたし真に受けてないし! つうかこっちから願い下げだし!!」
「……」

 ひとり激昂している未咲を見ていて、俺はきょとんとしていた。
 未咲……本当は嬉しいのではと何となく思ってしまう。
 まぁそんなこと言ったら、再び鉄拳制裁ですが。

「そ、そうなん、だ?」

 取り敢えずここは話を合わせよう、と空気を読んでみた。
 そんな俺の反応に、全くよと未咲は両手の拳を震わせている。

「とにかく戻ろ! そろそろ真夜さんも帰って来るし!」

 ぷん、と俺に背を向けて、未咲は自分の部署へ戻っていく。
 燐さんが追い掛けてくるんじゃないかと密かに心配していた俺は、念のため背後を振り返って見る。
 特に気配はなし。
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