死神にはなりません!
「最終的には閻魔様に審判を下されて、天国行きとか決められるんだけど……その途中で逃げ出す魂もいるわけ」
「……それが、怨霊?」
俺たちは近くにあった椅子に座りながら、まるで世間話をするかのように話し込んでいた。
俺の指摘に未咲は静かに頷く。
自分が死んだことを認めたくない魂。
此処で審判を下されるまでの間に、脱走することがたびたび有るんだそうだ。
大体は警備担当の死神に連れ戻されて、地獄行きとかにされちゃうんだそうで。
まぁ逃げ出す時点で、そんなに真っ当には生きて来なかったっていう理由らしい。
しかし運良く逃げ切ってしまった魂は、霊界の周囲をふらふらと彷徨い、時間を掛けて怨霊と化していく。
「怨霊を退治するのも、やっぱり死神の仕事なんだよね。神様の一部である人間だった魂を一旦預かるわけだから、責務は発生するわけで」
未咲のそんな話を、俺は追い掛けるのが大変だった。
理解するにはちょっと余裕が足りない。
要するに何だ、人間っていうのは、何か凄い存在なのか?
なんて自分なりに理解しようと頑張る俺に未咲の話は続く。
「本当は、怨霊なんて存在に成らせることが既に悪いことなんだけど……やっぱり管理にも抜け目があるんだよね。確かに、魂を管理しようなんていうことがおこがましいのかも知れないし……」
「未咲?」
未咲の声が次第に小さくなっていく。
俺はそれが気になって未咲を呼んだ。
俺の声に気付くと、未咲ははっとして慌てて笑った。
「ごめん、燿には関係ないことを。だから、えっと、燿が早く人間に戻れるようにビシバシ鍛えるからね!」
なんて、未咲は自分を元気付けるかのようににっこりしながらそう断言した。
つうかその発言は怖い。
しかし未咲の笑顔を潰したくもなかったので、おう、と俺も話を合わせて返事をした。
「で、その鍛錬って具体的には?」
俺は先に話を進めようと率直に内容を訊ねる。
未咲はうんと頷いて、自分の腰元に手を伸ばした。
スカートのベルトに提げられている、何やら筒状のものを取り出して見せた。
「死神の相棒、鎌を使っての実戦練習のことだと思う」
未咲がそう言いながら、椅子から立ち上がった。
そして、その筒を右手に持って頭上に掲げる。
ぶん、と腕を振り下ろすと、未咲の右手の筒が大きな鎌へと変化したのだ。
「わっ!」
変化した瞬間っていうのは見られなかったけど、未咲の胸元辺りを過ぎたときには既に刃先が輝いていた。
その刃先が俺の視界を切り裂くかのように振り下ろされた。
慌てて仰け反って避ける俺に、未咲が鎌を抱え直して喋る。
「死神は、この鎌をひとりひとつ支給されるの。命が尽きるまでずっと使う、まさに相棒」
「……へぇ」
もしかしたら斬られていたかも知れないと思うと、まだどきどきしてしまう。
未咲の話を聞きながらも、心臓を大人しくさせようとしていた。
鎌は未咲の身長よりも大きい。
刃の部分も鈍く輝いているし、この辺りはイメージ通りの死神だな。
なんて考えながら、無意識に未咲の鎌に触ろうと手を伸ばした。
「ダメっ!!」
しかし未咲に怒鳴られて、俺は驚いて手を止めた。
え、と動揺する俺から、未咲は鎌を隠すように筒に戻す。
未咲はぷう、と頬を膨らませて、怒るように教えてくれた。