死神にはなりません!


 真夜さんがピンと閃いたように、ぽつりと質問してきた。
 もしかしなくても料理ですと思いながら、俺は質問し返してしまった。

「料理、を、知らないんですか?」

 え、まじ、と思いっ切りどもりながらの俺の問い掛け。
 すると未咲と真夜さんはふたりして頷いてみせた。
 ええええええ。

「料理しないの? っつか食事しないの?」

 根本的なところからの違いに俺はどきどきしながら訊ねた。
 何でも死神っていうのは食事というものをしないらしい。
 特別身体の外からエネルギーを補給する必要はなく、ただ睡眠が取れればそれだけで済むんだそうだ。
 まじか。

 吃驚して茫然となる俺に、真夜さんが再び訊ねた。

「で、そのたまねぎのみじんぎち? っていうのは何なの?」
「……みじん切りです。えっと、玉ねぎっていう食物を、包丁っていう刃物で細かく切り刻んでいく作業のことです……」

 真夜さんの言い間違いをちょっと可愛いと思いながら、俺は普段無意識にしている作業の説明をした。
 玉ねぎのみじん切りも、言葉にするとなると案外難しい内容だなぁ。
 俺は人間の習慣ってやつの偉大さを改めて実感する。

 するとそれを聞いていた真夜さん、おっ、という好感触な反応を示した。

「何だ、武器使ったことあるんじゃない。なら基本はよさそうね」
「よかったね燿!」

 包丁を武器呼ばわりされた。
 確かに……凶器だけど、いや違うんだ、包丁は食事を作るための単なるツールなんだ。
 と思ったけれど、説明する気にはならず。
 だって死神さんだもんね……人間の魂を刈る方達だもんね。
 説明を諦めて俺は「はぁ」と曖昧に返事をした。

 何やら手応えが掴めそうなのか、よし、と気合いを入れる真夜さん。
 しかし何かを思い出して、一旦背後にある自分のデスクに戻っていった。

「ごめん未咲! わたし外回りの時間だ! サクッと行って来るからそれまでよろしく」
「あ、分かりました。いってらっしゃい」

 何かを確認すると真夜さんはそのまま部屋を出て行ってしまう。
 未咲が返事をして見送っていた隣で、俺も手を振って真夜さんを送り出した。
 はぁ、と溜め息を吐く俺に、未咲が気付く。

「燿、眠い?」

 俺の心配をする未咲に、俺は首を横に振る。
 眠いって言うよりは心労ってやつかも知れない。
 既に疲労感が酷い。

 まぁ寝れたら有り難いけど。
 と思って未咲に伝えようとする。
 しかし未咲の方が寸分早かった。

「でも基本的な話はしちゃいたいから、頑張ってね!」

 未咲が俺を真正面から見詰めてそう念押しをして来た。
 喋り出そうと思って口を半分開いたまま動きを止める俺。
 ……さいですか。

「うん、わか、ったー」

 結局、言葉の内容を言い替えて声を出す。
 寝れないんかい。
 眠いってことにしておけば良かっただろうかと後悔しつつ、俺は未咲が始めた話を聞くことにする。

 未咲はまず、この部屋の説明をしてくれた。
 此処は数いる死神を仕事の内容ごとに振り分けた中のひとつで外回り担当なんだと。
 死神にも各部署があるんだそうだ。
 ちなみに外回りというのは、実際に寿命を迎えた人間の許へ向かって魂を刈ることを言うらしい。
 普通の会社で言えば営業ってとこかな。

 魂を回収する真夜さんのような死神をはじめ、その魂の情報を管理する事務担当や、実際に魂を誘導する受付とか……本当にいろいろあるんだと。
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