第1話
普段歩き慣れていない道は近所であろうと新鮮に見えた。
華倉は神社庁の職員が寄越した地図を何度も確認しながら目的地へと向かっていた。
話自体は数ヶ月前から上がっていた。
それを何とか避けていた華倉だったが、つい先日、この件の担当職員が変わった。
中途採用とは言えまだ20代の男性だった。
『何で無理なんですか篠宮さん? 他の宮司さんたちはこんなに掛け持ちしてるんですよ? 篠宮さん基本自分とこだけでしょう?』
今までいた、所謂「事情を知っている」職員を外し、何も知らない相手をぶつけてきた。
華倉はそう思った。
しかし前任の事情を知っている職員も、篠宮家について全てを把握しているわけではなく、それでも「他の神社とは異なる」ことを理解してこちらの立場を尊重してくれていた。
しかし時代は変わっていたのだ。
神社の数に対して圧倒的に不足している宮司の人数。
今や1人あたり2桁の神社を掛け持つことも珍しくない。
そんな状況で、いつまでも華倉だけが免除されるなんて都合のいいことは許されなかった。
はぁ、と返答しあぐねている華倉に対し、新任の職員は資料をペラペラと捲り、ほら、と話を続けた。
『ここも管理者がいなくなってだいぶ経ってるんです。篠宮さんとこからも遠くないし、ね、月イチでいいですから』
そう言いながら華倉を見て、それから隣に同席していた自分の上司にも同意を促す。
この上司はまだ華倉側の事情をそれとなく把握している立場ではあるが、自身の仕事が1つでも減るならそれがいいのだろう、そんな複雑な表情を浮かべたまま、静かに頷いた。
確かに現状、華倉が受け持っている神社は、自身のところと他の小さな社を3つほどだ。
よその本職と比べたら暇があると思われても仕方がないレベルである。
しかし、華倉が神職の資格を得た理由はその全てが一族のため。
細かく言えば「憂巫女」を管理するためでしかない。
世間体や行政への言い訳、言い方は悪いがアリバイにもなるから等の理由で明治の終わり頃から神職の資格を取るようになってはいたが。
『じゃ、取り敢えず下見がてら1回行って来てください。住所はメールに添付しときますんで』