第5話
琴羽は歩けるほどに回復し、その日も
為昌はすっかり日に焼けた顔で笑い、そろそろ胡瓜が出来るぞと教えてくれた。
「……わたしもやってみたい。構わないか?」
そう訊いてきた琴羽の顔を為昌はまじまじと見詰める。
少しだけ驚きの色を含んでいた。
しかし為昌は楽しげに「勿論だ!」と返し、琴羽にすぐに出来そうな作業を教えてくれた。
その日の夜。
やや高台にある為昌の家から、麓を彩る橙色の道が見えた。
あれはと訊ねる琴羽に、為昌は久々に手に入った酒を楽しみながら答えた。
「今日は麓にある神社の例大祭なんだ。あれは参道に提げられた縁日の提灯だな」
ここから眺めるその灯りはとても淡く、闇から闇へ続くが、しかし確かに人々の姿を見せていた。
「行きたいか?」
縁日、と今度は為昌が琴羽に訊いた。
琴羽は為昌を見詰め、その気持ちがなかったわけではないが、首を横に振った。
最近は――殊此処で過ごすようになってからはまだ一度も妖怪の類とは遭遇していない。
けれど縁日などという、人の世と異界との境が曖昧になる場所、時刻では何が起こるか予想も付かない。
避けるに越したことはない。
しかしそれと同時に。
「……ここから、こうして眺めているだけで充分だ」
琴羽の言葉に為昌が嬉しそうに笑う。
何だと不思議そうに返す琴羽に為昌は続ける。
「おれも同じ気持ちだったから、ついな」
こうして人混みから離れた場所でひとり、虫の音と遠くから流れてくる出囃子に耳を傾け、夜の静寂に身を溶かす。
「昔からそのような過ごし方をしていた。人知れずひとりで……だが」
為昌は盃を空けると改めて琴羽を見る。
琴羽も為昌の視線に応えた。
「不思議なものだ。今年はお前がいるせいか、いつもより楽しい。楽しいのに穏やかだ」
本当に。
そんなことまで同じとは、と琴羽もくすりと口許を緩める。
その琴羽の笑みを見逃さなかった為昌が、間髪入れず告げる。
「良いな、お前の笑い顔は」
互いの視線を絡ませたまま暫く。
一度琴羽が伏せた目を、為昌は温かく捉える。