第5話
もう2度と光は差し込まないと思った。
少なくとも
しかしその闇は琴羽をそのまま閉じ込め続けることはなく、少しずつ裂かれ始めた。
瞳が自然と開いて、見えて来たのは古ぼけた天井。
死ねなかったのだと琴羽はすぐに認識した。
けれどこの時、もはや飛び起きるなどいう元気もなかった。
普段よりも寝心地が良かったためもあるだろうか。
琴羽は暫くぼんやりと天井を眺めたまま、ただ静かに呼吸を繰り返していた。
「……! 気付いたか」
何やら物音がして、恐らくこちらへ向かってくる足音と続いて、そんな明るい男の声が降ってきた。
琴羽はようやく視線だけ天井以外へと動かす。
見慣れぬ男だった。
しかし
彼がわたしを助けたのか、とぼんやり考える琴羽の枕元に座り込み、男は濡らした手拭いを差し出す。
「済まない、また拭かせてもらうぞ」
ひんやりとした柔らかな感触に顔と、髪の毛も綺麗に拭かれていく。
まだ熱はありそうだな、と琴羽の額に浮かぶ汗を確認しつつ男は呟く。
「本当は薬も用意してやりたいが今はやはり……済まない」
申し訳なさそうに力無く微笑み、男は謝る。
何を謝ることがあるのか、琴羽はそう思ったが喋る気力はなく、ただ緩く、顔を左右に振った。
男はそれでも安堵したように琴羽を見詰める。
倒れたときよりは幾分も良くなっていると言いながら。
「覚えてないかも知れぬが、お前はあの大雨の中増水した川へどうしても身投げさせろと暴れていて……糸が切れたように意識を失い倒れたのだ。酷い熱を出し、かれこれ5日は経った頃か」
桶に入れた水で手拭いを洗い、絞る。
男の話に琴羽は僅かながら記憶があった。
そうだ、鬼神を殺し、そのまま逃げ出し、もはやこの世に留まる必要はないと。
今にも流されそうな橋の上でこの男に見付かった。
死なせろと喚く琴羽の腕を力強く掴み、制止しながら男は叫ぶ。
『馬鹿を言え! そんな薄情な真似が出来るか!!』
その後はもう曖昧だ、恐らく倒れたのはその直後なのだろう。