第4話


 魅耶が同じチラシを2枚並べた前でそう言った。

 静岩寺。
 膨大な数の鬼の亡骸が埋葬されているだろう石塚のある、謎の寺。
 恐らく隼人――鬼喰いを続けて来た一族、瀧崎家が絡んでいるであろうその寺は、広く地域に開かれた馴染みやすい場所のようだった。

 あの後菱人に会ってきた華倉は、隼人が寄越したという憂巫女に関する資料を見せてもらった。
 何が書かれているのかは正直何も読み取れなかったが、菱人の様子が落ち着かないところを見るに、とんでもない代物であることは感じ取れた。

 菱人は今も憂巫女に関する資料を蒐集し続けている。
 その中には幾ら金を積んでも入手出来そうにないものもたまにはある。
 そういうものに当たったときの反応に似てるな、と華倉は思っていた。

 しかし菱人の様子に落ち着きが見られないのはシンプルに興奮しているからだけではないことを、その直後にきちんと知らされた。

『本当に腹の読めない奴だよ、あの人は。当たりは悪くないのに却ってそれが不気味なんだ。強く出ていいのか今のままの方がいいのか、こんなに決めきれないのは初めてだ』

 菱人が眉を顰めてそんなことを言うものだから、華倉はポカンとしてしまった。

 今話題にしているのは、あの瀧崎隼人で違いないはずだ。
 腹の読めない奴という感覚は、少なくとも華倉には無かった。

 しかしそれも、華倉が何か利害関係を意識して隼人と付き合いをしたことがないためだろうことは、何となく気付いていた。

 同じ高校で一緒に生徒会運営をしていたとは言え、隼人に関しては魅耶の方が多くの時間を接していたはずだ。
 それを今になって思い返すと、あまりいい気分にはならない。

 現金なもんだなと華倉は口には一切出さずに頭の中で独り言を完結させ、1人で気恥ずかしさを感じていた。

『それでその、静岩寺ってところに鬼の気配が?』

 菱人が話を変え、華倉の持ってきた話題に移った。
 華倉も表情を引き締めたものに戻し、頷きながら続ける。

『魅耶が否定しないから、それっぽい何かがあるのは事実なはず。出来れば今度真鬼にも確認して欲しいんだけど……あんまりこう、短期間で何度も行くと変に思われそうだし』

 ちょっと時間置いた方がいいかもなと華倉は窺う。
 可能であれば住所を伝え真鬼1人でも、もしくは菱人も一緒に出向くことも考えた。
 菱人もそれには特に異論はなく、時間を見付けておくと返した。

『……まぁ、一番不審がられずに入れるのが、これだと思うんだけど』

 少し黙ったのち、おずおずとチラシを見せながら華倉はそう口にした。


2024.12.17
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