第4話
しかし戦後の急激な社会情勢の変化と共に、人が変わり町が変わって、稲荷神は次第に人々の暮らしの中心から隅へと追いやられていく。
『正直このまま棄てられる覚悟もしてたよ。神とは言え力も弱いし格下のペーペーだし、それも仕方ねぇなって』
でも今も良くしてくれている人間たちのことがちょっと気掛かりなんだよな、と稲荷神は呟く。
『俺がただ此処に居るってだけのことで、あんなに楽しそうにしてるのを見てると、何も出来ないまま消滅するしかないのが悔しくて』
それでももし負担になってたとしたら、俺はこのまま神社仕舞いしても構わないから。
稲荷神は華倉に、ボランティア3人の本音を聞いてくるようにも頼まれていた。
けれど、こうしてボランティアたち各々が話をしている姿を見ているだけでももう分かる。
華倉の中ではもう決まっていた。
少なくとも自分の代が終わるまでは稲荷社は存続させるべきだと。
「宮司さんが決まっただけでも有り難いわ。出来ればまた例大祭なんかも再開したいところだけど」
「相変わらず気が早いなぁアンタは。それよりも先にやることがあるだろうに」
思い出話から芋づる式に稲荷神社に関するあれこれを列挙し、葉山が楽しそうに思いを巡らす。
彼女が幼い頃にはまだあの稲荷神社でも縁日のようなものが催されていたという。
葉山よりも歳の多い野崎は、そんな簡単にいくかいとは答えたが、例大祭には思い入れがあるような素振りを見せていた。
大事な神社なのだな、と華倉も気付けば彼らの話に丁寧に耳を傾けていた。
華倉と同年代である杉野も頷きながら、僕の頃はもうやってなかったなあと会話に混ざる。
「一度は見てみたいですねぇ。小さくても人集りが出来るくらいの稲荷様」
正直こんなに若い、平日は仕事に徹していそうな人間が神社管理のボランティアにいるとは、華倉は思いもしなかった。
聞くと杉野は所謂フリーランスで、勤務時間も自由に決められる在宅作業の仕事なのだと言う。
会社勤めが性に合わず、と恥ずかしそうに教えてくれた杉野に、華倉は謙遜でなく心から「ちゃんとしてますよ」と返した。
華倉からすれば杉野は本当に凄い人間である。
会社勤め云々で言えば、華倉の方が出来たかどうかも怪しかった。
そんなことを頭の片隅で思いつつ、多様性ってやつだねぇと笑う野崎の愉快そうな声に意識を引き戻された。