第4話
その喫茶店は個人が経営している、近所の交流の場でもあった。
現在稲荷社の管理をボランティアで担っているのは中高年の男女3人。
彼らは月1回集まって清掃や備品の管理などを行い、終わるといつもこの喫茶店で一服していくと言う。
今日はその定例の日ではないが、華倉は顔合わせと称したその集まりに参加していた。
号令を掛けたのは当の稲荷神だった。
「いやぁ驚いた。稲荷さんの言う事が本当だったとは」
運ばれてきたコーヒーに手を付ける前に、野崎(70代近い男性)が華倉をしげしげと見詰めて言った。
華倉は稲荷神自身から聞かされていたが、こうして本当に集まってしまえるとは、と男性たちとは別の向きに驚いていた。
今日、ボランティアの3人は何の約束もしていなかった。
しかしここ数日の間に稲荷神が各々の夢に出て来て『新しい宮司が来るから挨拶に来い』と告げたという。
皆半信半疑でいたところ、一番若手である杉野(40代の男性)が2人に連絡を入れ、同じ夢を見たことを確認したため急遽集合したという。
華倉も神社本庁の名前を使って、野崎宛に連絡を入れていた。
ただ稲荷神の話はしないでおいた。
自分は稲荷神と直接話をしてボランティアの面々のことも知り得たが、彼らにとってはこれが全くのファーストコンタクトだ。
下手に事情を知っていることを悟られるのは何となしに気まずい気がした。
人数分のコーヒーが揃ったところで、改めて華倉が口を開く。
神社本庁から話を受け、来月から此処の稲荷社の宮司として奉仕することになったこと。
今あの稲荷社の管理を担ってくれているのが彼らだということ。
これからは華倉も一緒に社を守っていくことになることを伝え、まずは深く頭を下げた。
ボランティアたちは「そんなに畏まらないで」と微笑んでくれているが、やはりまだどこか余所余所しくあり、いまいちどう接するべきか図り兼ねているようだった。
取り敢えず華倉は稲荷社について3人から意見を聞くことにした。
3人の稲荷社に対する思いに差はあるが、自分なりに残していこう、自分が出来ることで関わっていきたいという姿勢は一致していた。
華倉は稲荷社と自分にある思い出話をする葉山(60 代の女性)の微笑みを眺めながら、ふと昨日聞いた稲荷神の本音を思い出していた。
『言うても俺は祀ってもらってまだ200年やそこらの新参よ。地元の人間たちはほんっとに良くしてくれたからそれは嬉しかったけども』