第3話
こうして実際に顔を見ながら交わすやり取りが菱人にとっては、文面だけのものよりも更に異常なものに感じられた。
暫し沈黙の後、菱人は書類をしっかりとプラスチックケースにしまい込んでから、隼人に改めて頭を下げた。
まずは1ヶ月ほど借り受けると伝えると、隼人は急がないでくださいよと笑う。
それから軽い社交辞令を交わし、次のアポは特に決めないまま、隼人が車を降りた。
瀧崎側の運転手もそれを見て先に車に向かい、ドアを開けていた。
隼人が乗り込むとドアを閉め、運転手はこちら――ドアを開けたまま降りていた菱人とその傍らに立つ真鬼に対して一礼した。
先に瀧崎の車がいなくなる。
菱人が自分でドアを閉めると、少し遅れて真鬼が運転席に乗り込んだ。
「何か腑に落ちないことでも?」
真鬼は瀧崎の運転手と同じように外で待っていた。
車のすぐ傍にはいたが、中での2人の話は聞こえていなかった。
菱人はエンジンを掛ける音と同じくらいの声で、ああ、とだけ応える。
全く拍子抜けだ。
書類を入れた鞄を撫でるように手を置き、菱人はやや深めに息を吐く。
何を話したんだと訊いてくる真鬼に、しかし菱人は自らの口からは説明しなかった。
ドラレコに全部入ってるとだけ、気怠げに返した。
2024.11.29