第3話
華倉が魅耶の難しそうな表情に気付いたのは、見慣れた、よく通る主要道路まで出て来たところだった。
どしたのと訊く華倉に、魅耶は少しずつ話を始めた。
「あの寺は……僕たちが知っている相手が関わってるのではないかと思いまして」
魅耶から切り出された内容に、華倉はきょとんとしてしまった。
まるでそんな発想がなかったのだ。
そんな華倉に魅耶は1つずつその根拠を挙げてみせる。
「あれは正しく鬼塚でしょう。あの石碑の下には2桁では収まらない数の鬼の亡骸がある」
その場に立ち止まったまま、華倉は魅耶の話にじっと聞き入る。
魅耶も歩き出す様子はない。
2度目の青信号を見送ったあたりで、恐ろしいのは次なのですが、と魅耶が続ける。
「その数は今も増えているみたいです。石碑の陰にはなってましたが、真新しい掘り返した跡がありました」
新しく出来た鬼の亡骸を埋めて、まださほど時間が経っていない証拠だ。
鬼の亡骸を処分するような存在があの寺にいる。
どんな奴なんだよそれとその華倉の口調こそ軽かったが、表情は険しく目付きは固くなっていた。
魅耶は変わらず落ち着いた様子だったが、1つ溜め息を吐き、言いにくそうに告げる。
「居るでしょう、1人。鬼の亡骸の扱いに慣れた奴が」
その言葉で華倉もすぐその顔を思い出す。
華倉の記憶が確かなら、今日菱人がアポを取っている相手だ。
「瀧崎、?」
***
渡されたものはコピーだったが、そこに書かれているものは菱人も全く見たことのない内容だった。
思わず息を飲み、相手の存在も忘れて読み込んでしまいそうになる。
「うちにある憂巫女について書かれた書物で一番古いものがそれです」
けれど隣に座る隼人からのそんな説明に、菱人は一旦顔を上げた。
華倉との予定が延期になったため、ダメ元で隼人に時間を繰り上げて会えるか連絡してみた。
驚くほどあっさりと了承が得られ、菱人は真鬼の運転で待ち合わせ場所まで赴いた。
お互いの家からも程良く離れた何の関係もない駐車場に着くと、既に1台停まっている車があった。
真鬼が降りると同時にその車からも運転手が降りてきた。
運転手と話を着け、真鬼が相手の車に横付けすると言って再度エンジンを掛けた。
真鬼が出るのと入れ替わるように隼人が入ってきて、後部座席の菱人の隣に座る。