第3話
魅耶はそこまで喋ると、一度肩を落とすように全身の力を抜き、とは言え、と華倉を見る。
「僕も以前より鬼神の力が弱くなってまして……まだ真鬼の方が細かく読み取れるでしょうけれど」
今の僕では、鬼の亡骸が沢山あることしか分からない。
魅耶は少し残念そうな笑みを作って華倉に言う。
華倉は首を横に振り、充分だよと返した。
魅耶から鬼神の力が失くなることは、華倉にとって喜ばしいことである。
そもそも魅耶には、華倉では対処し切れなかった場合のフォローのため今日は同行してもらっている。
本来なら自分が感じ取る、読み取らねばならない状況なのである。
そういやそうじゃん、とその時ようやく自分の目的と役割を思い出したが、華倉はまず魅耶に礼を述べた。
「でもこれで稲荷神の話の裏は取れたし、次はこの石碑……鬼の塚が何なのかを調べた方がいいよね」
「こんな場所があったなんて、今の今まで本当に知りませんでしたね」
それも不思議だった。
普段は用のないところとは言え、総本山からもさほど離れた場所ではない。
最近まで最悪の鬼神と幾度となく戦っていたにも関わらず、ここの鬼の陰気は何の反応も示さなかったということなのか。
取り敢えずこの寺の人間について調べるかなどと言い合いながら来た道を戻り、墓石の並ぶ中央通路まで出て来る。
と、向こうからあの若者がやって来た。
しかし住職と違って若者は愛想もなく、何も言わずただ会釈をしてそのまま通り過ぎた。
淡泊な感じだなと呟く華倉の隣で、魅耶がやや鋭い視線を若者の背中に向けていた。
山門の手前でまた住職と言葉を交わし、挨拶をして静岩寺を後にした。
時間はまだそれほど経っていない。
けれど再度稲荷社に立ち寄ると、稲荷神は今度こそ起きていた。
眷属の狐に事情は聞いているのだろう、挨拶もそこそこに稲荷神は結果を求める。
華倉が先に「鬼がいると見た稲荷神の考えでおおよそ合っている」旨を簡単に告げたあと、魅耶が幾つかの仔細を付け加えた。
幸いあそこから何かが出て来て悪さをすることはないだろうとの魅耶の言だが、それに対して稲荷神は不満気な顔で返す。
『夜不気味なのは変わらないってことじゃん? それが嫌なんだよなぁ。憂巫女の力とかで何とかならんの?』