第2話
念のため距離はやや取ったまま山門の方を窺い見るかたちで歩道の脇に留まり、魅耶が華倉にそう訊いた。
今日は魅耶もいる、加えて「鍾海」も携えてある。
こんな場所で一戦設けるわけにはいかないが、相手が本当に「鬼」であった場合、向こうから仕掛けてくる可能性も排除出来ない。
「鍾海」を納めた竹刀ケースの肩紐も掴んで、大丈夫、と華倉は頷く。
心配そうな魅耶の視線に気付いた華倉は、魅耶の目を真っ直ぐに見詰めて笑顔を返した。
「こんな早くに墓参りでしょうか?」
しかし2人がまだ覚悟を決めている途中にも関わらず、明らかに華倉たちへ向けられた声が飛んできた。
気付くと、あの作務衣姿の若者が山門の外へと出て来ていた。
外塀周りの掃除もするのだろう、手には竹箒に塵取り、足元にはゴミ袋が置かれている。
若者は華倉たちの気配に気付いていたのだろうか、ふとそんな疑問を華倉は抱いたが、境内に入るチャンスでもあったため、話を合わせる。
「ええ、彼の友人の墓がこちらにありまして。仕事前に寄ろうと」
華倉がそう作り話を始めたので、魅耶も軽く会釈をして合わせた。
そうですか、と若者は特に怪しむこともないが興味も持たない様子で返事をし、立っていたその場から一歩下がると道を空ける素振りをした。
どうぞ、と中へ誘う。
華倉は笑みを浮かべてはいたが、今も昨日感じた冷たい恐怖心を必死に抑え込んでいた。
鬼の陰気が今はない、というわけではなかったからだ。
明らかにここには鬼たちの何かがあって、それらが「憂巫女」の存在に反応している。
心臓の音が耳の奥から弾けるように脈拍している。
とにかく山門の敷居を跨いだ。
「おや、昨日の」
本堂の前を左手へ進もうとしたところで、昨日会った住職とも再会した。
華倉は愛想笑いではあるが会釈と挨拶をし、先程若者にしたものと同じ説明をした。
こんな朝早くに済みませんと頭を下げる華倉に、住職も微笑みながら謙遜した。
水道は中央通路の左側です、と親切に教えてくれた住職に礼を返し、華倉は先に行く魅耶の背中を見る。
その華倉の後ろから、住職が「綾彦」と人を呼ぶ声がした。
掃除しているあの若者のことだろうかなどと考える華倉の前を歩く魅耶は、当然ながら教えてもらった水道へは行かない。