第2話
鬼の陰気とでも例えようか、華倉はそう、あの時感じられた感覚をどうにか言葉にする。
稲荷神は低級の鬼だと見ている。
けれどそれでも、身1つで近付くのはきっと自殺行為だっただろう。
それだけの圧と、重苦しいほど詰め込まれた力がそこにはあったのだ。
「だから明日の朝一番にもう1度行っておきたい。稲荷様にもそう伝えちゃったし……『鍾海』と魅耶があれば、呑まれることはないはずだから」
正直なところ、今日は無理でした明日出直しますと稲荷神に伝えたところ、稲荷神は目に見えて残念がっていた。
今日も怖いまんまか〜と溜め息を吐きながら漏らしたが、初対面であり突然の話だからということで納得してもらえた。
その足で菱人に予定変更の連絡を入れ、次の仕事へと向かったのだった。
華倉の話を聞き終え、そうですか、と魅耶は怪訝そうにしながらも頷く。
洗い物を終えると、続きは食べながらにしましょうと言いながら食器棚へ向かった。
***
静岩寺へ向かう道すがら、稲荷神へと挨拶に寄ったところ、今日は姿を見せなかった。
何度か呼び掛けてみたところ眷属を名乗る狐が1体現れて、稲荷神はまだお休み中だと教えてくれた。
話によると、稲荷神はあんな態度ではあったが、華倉が来てくれたこと自体に安堵を覚えたのも事実らしく、久方振りによく眠っているとのこと。
眷属の狐はそう、口を動かすことなく華倉たちに伝えると、自身も嬉しそうに笑ったような顔をした。
昨日は下見だけのつもりだった。
何ならこの話をどう断ろうかすら考えていた。
けれど、華倉は昨日の自分の感情を思い出しながらも少し照れたようにはにかむ。
ではまた後程伺いますとだけ伝え、静岩寺へと向かうことにした。
信号を渡ってすぐ華倉が魅耶に声を掛ける。
ここから見える石碑のような岩の塊を指差して教えた。
魅耶も怪訝そうに、外塀から抜きん出て見えている岩の塊の頭を見詰め、確かに、と小さく呟いた。
山門は既に扉が開かれていた。
寺の朝は早く、僧侶たちは各々に勤めがある。
ここも多分に漏れなく同じだ、山門から境内を覗いてみると、すぐ手前に作務衣姿で掃き掃除をする若い僧侶がいた。
「今日は入れそうですか?」