第2話


 山門傍の石柱には「静岩せいがん寺」と彫られている。
 中に入ってすぐ見える石畳はそのまま本堂へと続いているようだ。

 信号を渡った時には本堂と同じように外塀そとべいから頭が見えていた何かの記念碑らしい岩の塊は、ここまで来ると本堂の裏手に隠れてしまっていて見えなくなっていた。
 その岩の塊が華倉は気になっていた。

 一見すると普通の、本当にごく一般的な寺にしか見えない。
 けれど稲荷神の言うことが事実であれば、ここには何かが「在る」のだ。

 その発信源が、恐らく。

 しかし山門は開かれているというのに、華倉はそれ以上足を進めることを躊躇っていた。
 躊躇うではなくより適切なのは、出来ずにいた、かも知れないことにも気付きつつ。

 何故だろう、これ以上は近付いてはいけない気が、そんな直感を華倉は抱いていた。

「どうされましたか?」

 そんな華倉に気付いたのか、1人の中年男性が本堂の方から姿を見せた。
 作務衣姿で、どうやら掃除か何か作業していたようだった。
 華倉が訊ねると、彼はここの住職だった。

 住職も見たことのない相手だとすぐに分かったのだろう、世間話がてら何か用件があるのかと話を続ける。
 本当の理由は伏せつつ、仕事でこの辺に来ることになるので散策に来たと華倉は答える。

 出来れば敷地内へ入り、中を一周、特にあの石碑のような岩の塊が何なのかを確かめたかった。
 折角住職とこうして会話が出来たというのに、華倉はその許可を得ることもやはり出来ずにいた。

 このまま入ってはいけない。
 華倉の中の、その「声」が震えながら警告する。

 そう、少なくとも「この身1つ」でそれに近付くことはやめるべきだと。

 代わりに華倉はこの寺について簡単に説明を請うた。
 稲荷神の話と照らし合わせるつもりでもあった。

 住職は本当にごく簡潔に、いつからあるのか、宗派は何か、檀家との付き合い方などを話してくれた。
 そして最近は、所謂一般開放イベントなる「寺マルシェ」というものも始めたという。

 住職は一旦本堂脇の、恐らく玄関であろう扉まで戻ると、何やら1枚持ってすぐに出て来た。

「これがチラシです、次回は来月の半ばにありますので」
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