やり直しの一歩目
「……セックスだってその1つだ。別に暢洋さんは見返りとして抱いてるわけじゃない。あれも救いの1つなんだ」
突然のストレートな物言いに吃驚してしまう。
でも、それは舜さんにとって一番の「救い」であったからこそ話せる内容だったんだ。
「あの人にはそれが出来る。だからやってくれる。傷付いた心を治すのは勿論、本当の意味を教えるために」
他人に触れること。
自分に触れること。
個別の肉体を持つ“物”同士の関係の在り方。
暢洋さんの手は本当に優しくて、触れ方は温かくて、抱かれるという行為はもはや包み込まれると言いたいほど心地好い。
そうやって、粗暴に扱われボロボロにされてきた子供たちを癒して治して、上書きする。
「あの人は愛を知ってる。恐怖と嫌悪しかなかった俺が、自分から求められるようになるほどに、あの人は本当の愛し方を教えてくれた」
それは多分、意図せず零れた舜さんの過去。
えっ、と声が漏れて、俺は舜さんを凝視してしまったけれど、舜さんは話を続ける。
「自分を取り戻せれば、後は好きにさせてくれる……。全然縁を切るわけではないし、やっぱり助けを求めれば手を差し伸べてくれる」
必要以上のことはしない。
ビジネスだから出来る力加減。
舜さんの話に聞き入ってしまって、作業する手が完全に止まっていた。
でも舜さんもそれは許してくれるらしい、自分も喋ることをやめない。
俺は、と前置きするように、改まった息遣いで。
「暢洋さんのようになりたい。そう考えた。でも俺にはあの人と同じことは出来ない」
でも、自由を与えられても尚、気持ちは変わらない。
「俺は暢洋さんに関わり続けたい。何度別人になっても、命を狙われる人生になっても、俺は此処がいいんだ」
ふっ、と、舜さんの口角が上がった。
柔らかな笑みだった。
そのまま話は終わり、舜さんは3つ目の段ボールに封をした。
残りは4階の倉庫か、と呟きながら立ち上がる舜さんから、俺は目が離せない。
そんな。
そんな舜さんにとって、絶対であり全てになったであろう、此処に。
「……いいんすか、」
何がだ、と舜さんが訝しげに俺に視線を寄越す。
俺は正直胸がいっぱいで、緊張で口も渇くほどだった。
舜さんは身内を全員始末したと言っていた。
今後また新たに別人として生きていく。
そんな舜さんの、傍に――
「俺……も、連れてってくれるんですか……?」
俺の譫言みたいな問い掛けに、舜さんは一旦きょとんとした。
それからすぐ、あー、と理解した声を漏らし、溜め息を吐く。
俺の真ん前まで来て、座っている俺と目線を合わせるように前屈みになり、微笑む。
「ああ、頼むぞ」
2026.09.07
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