帰結
具体的に何をするのかまでは怖くて聞けなかったので、家財道具の話に意識を集中させることにした。
あの家に、俺が惜しいと思うものなんかあっただろうか。
もう朧気にしか記憶にない狭く息の詰まるアパートの部屋を脳裏に浮かべ、緊張感を解くようにゆっくりと息を吐き出す。
「僕の出国後は暫くこの人たちが来てくれるからね、何でも言ってくれていいからね」
暢洋さんはそう言いながらようやく俺にもパソコンの画面を見せてくれた。
そこには数人の男性の写真と名前がリストになっていたんだけど、いやそれよりも出国?
「そう言えば暢洋さん、出張とか言ってました?」
話の全体を今になって把握した俺は、先にその質問をした。
暢洋さんは頷くと少し改まった様子で続ける。
「今回のはちょっと長くてね。数年は帰って来れないんだ」
そりゃ滞在くらいは出来るけど、と暢洋さん。
でも基本的には海外に腰を落ち着けて集中して取り組みたい仕事なんだそうだ。
しかも数年て……そのついでに今回、俺の母親の処分もしてくれる、のか。
「で、僕が日本にいない間はこの人たちを含めた数人が僕の仕事を代行してくれることになってる。その内の1人が舜くんね」
暢洋さんはパソコン画面のリストを差していた指を、最後に舜さんに向けた。
えっ、と驚く俺の視線には舜さんは相変わらず涼しい顔を返してくる。
暢洋さんの代理ということに単純に驚いていた俺に、暢洋さんは更に続けて驚かせてくる。
「なので陸くんには舜くんのサポートも兼ねて実務に入ってもらうね。これからもよろしく」
ね、と暢洋さんは俺に言って、それから同じように舜さんにも笑い掛ける。
舜さんは何となく落ち着きを欠きながらも頷いて、はい、と静かに答えた。
……俺、此処に居られるのか。
それだけでもとても安心した。
だから場違いだったかも知れないけど自然と笑顔になってて、はい、とさっきまでより二段階くらいは明るい声で返事をしていた。