帰結
「宮口真幸(まさき)、17歳。西区谷丘町4丁目のアパートで母親と2人暮らし。小学校にあがったくらいから母親による虐待が始まり、本人はそれを隠して学校に通い続ける。年齢を偽ってしていたアルバイト代で高校に進学するも全てが母親にバレて3ヶ月ほど自宅に軟禁状態に。隙を見て逃げ出し、飛び降りる場所を探しているところを舜くんに保護される……と」
そういうことだね、と暢洋さんは視線を手元の書類から俺に移して確認を取る。
俺は込み上げる吐き気を静かに抑え込みながら1つ首を縦に振った。
本当に調べられていた。
暢洋さんから話があると舜さんに言われて、いつものようにふらっと遊びに来るのかと思って返事をしたときの舜さんの顔を見て驚いた。
表情は普段より険しく、その瞳は怖いくらい冷え切っていた。
多分、俺の情報について先に知らされていたからだろう。
俺の今後の話をしに来てくれるのだと、俺もそのとき気付くことが出来た。
暢洋さん自身は相変わらず緩い雰囲気のまま、お土産のシュークリームとか用意してきてくれたんだけど。
嬉しいけどとてもじゃないけど今は、呑気に食べていられる空気じゃなかった。
何とか先にお茶だけは出せたのがせめてもの余裕だったかも知れない。
「陸」という名前を貰って久しく、自分の本名はそんな感じだったななどと思う。
俺は所謂母子家庭で、何で父親がいないのかは知らない。
あの母親に向かってそんなこと聞けるような環境ではとてもじゃないけどなかったし、聞いたところで機嫌が良くなければ何を言っても殴られただろうし。
俺にストレスの全てをぶつけていた。
殴る蹴るは数に入らないほど、色んな、全ての暴力を振るわれたんじゃないかと思うほどに。
もう記憶も曖昧な部分もあるし、進んで思い出す必要もないだろうから聞かれなければ答えないつもりだった。
事実暢洋さんはどうやったのかは分からないけれど、俺に1つも質問せずに俺の過去をほぼ全て網羅してきた。
……まぁまだ生まれて20年も経ってないんだ、過去とは言えそんなに量なんかあるもんじゃない。
とは言え。
「どう陸くん? 決められた?」
資料をテーブルに広げるように置いて、俺ににっこり笑い掛けて暢洋さんは訊く。